愛に一番近い感情

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「簡単ではありません。答えがひとつではないからこそ。お二人の場合は、そうではありませんか?」  そこでおじさまは目の間を指でつまむようにして、疲れた声色で続けた。 「私と妻の場合、選択肢はあってないようなものだった。無論、昔決まったことについて今さら後悔などしていませんし、今まで、そしてこれかも彼女と一緒にいられることをありがたく、幸せなことだと思っています。ですが……たとえ万一にもお互いに同じ気持ちを抱いているとしても、結婚したことが妻を追い込んで苦しませることになってしまったのだとしたら……」  俯いて、苦しそうに少しずつ、言葉がこぼれる。 「無理に世間一般的な型にはまるのでなく、もしそれ以外に愛情を伝える方法があったのなら、そうすべきだったのかもしれない」  突き刺さるような痛みが胸を刺激した。  気のせいか、目の前の彼が泣き崩れてしまいそうに見えたのだ。  お互いのカップはとうに空になっている。 「……いや、見苦しいところを見せてしまい申し訳ない」  私は小刻みに首を振ることしかできず、滲み出て私たちの間に浮いていた感情を掬い取ろうと、必死に考えを巡らせていた。
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