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違う。あれは、どこまでも彼と向き合っていたい望みから出たものだ。自分にはもったいないと思うくらい自然に優しいあの人の気持ちが、確かに私のほうを向いていると知って、安心したかった。そして自分もそうだと、私だって同じように本気の、愛に近いくらいのこの先も一緒にいたいと思う気持ちを抱えていると、わかってほしかった。
それを形にした結果があれだった。本気の気持ちで将来を考えている人なら浮かんで当然と思ってた、両親に会うべきという提案。私たちの場合、それは必ずしもこの先の幸せや安らぎに繋がるとも限らないなんて、思い当たりもせず。
実際は、もっと簡単な話だった。「今さら」や「改めて」になってしまうとしても、ただ想いをそのまま伝えればよかった。
俯き気味で言われたことや思い浮かんだことを反芻していると、ふと声がした。
「さて、そろそろ時間ですか。長くつきあってくださりありがとうございます」
「いえ……私のほうこそ……」
教わったことが多い気がする。
テーブル越しに頭を下げると、おじさまは同じように返し、スーツジャケットを羽織ると伝票を手に取り、席を立った。
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