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つい目を伏せて手を口に当てると、指が震えてるのに気づく。
まさか、値踏みされてた……? 私が今日来ると知っていて、最初から……?
いや。目当ては景斗くんとも十分考えられる。それに、京介さんは両親に私たちのことを話してないと言ってる。向こうから何も聞かれないし、自分からわざわざ報告もしてないって。だからこそ、そもそもの喧嘩になったのだし。
……向こうがその気になれば調べることなど、いくらでもできるだろうけど。
改めて、おじさまの話や雰囲気、身振りなどを思い返す。
違う気がした。
偵察とか値踏みとか、そんなことをしに来てたんじゃない。ただ純粋に気になって鑑賞に来ていて、そこで出会ったのが私だっただけ。
聞いた話の男の子を京介さんに置き換えて、思い返す。
そんな思いが……そんなに前から、あったなんて。そしてそれを、あの人は今もなお印象的に覚えているなんて。
その背景にあるだろう慈愛を想像してみて、重く温かいものが体を巡りだす。
スマホで時間を確認すると、午後の四時半を過ぎていた。もう夜公演は始まってる。
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