愛に一番近い感情

　知り合いの同年代の女性のことを思い返すと、焦る。結婚していて子どもまでできてる人もいれば、世間一般的な「仕事の成功」を持って親や周りをあっと言わせた人もいる。
　私はどれもできていない。色々置いていかれてる。親、親戚や周りや社会だけじゃなく、京介さんにまで……
　チラシは一枚取って、鞄に仕舞う。
　劇場前の受付まで行くと、入口隣の壁に貼られた上演作のポスターが目に入る。
　ポスターの中心には、小雨の降る曇り空の背景に少し距離を空けた背中合わせの男女が写っている。その頭上を薄紅色の花びらが舞う彼女の視線は後ろにいる彼を向き、彼は哀しそうな顔で上を向いて、ひらひら落ちてくる紅い葉っぱを捕まえようとするように手を伸ばしている。淡い色合いの儚げな雰囲気。原作小説の扉絵を再現した透明感のある美しい絵に、出演者の二人も自然に溶け込んでいる。
「出演：柴山(しばやま)景斗(けいと)／池端(いけはた)紗姫(さき)」
　ポスター下部に載った俳優の名前を確認して、やっぱりこの二人にはこれがよかったと確信した。
　出演者に続き、制作関係者の一覧もじっと見る。
「脚本：高橋(たかはし)舞子(まいこ)」
　間違いなく、私の仕事だ。