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背中合わせは切ない。お互いを見るわけでもなく、一緒に同じ方向を見るわけでもなく、ただ近くにいるだけ。
何のために?
ポスターから目をそらして受付に行く。関係者招待のチケットを受け取って振り返ると、斜め後ろに立っていた一人の初老の男性と目が合った。高級そうなスーツジャケットを羽織って凛とした姿勢で立ち、静かに順番を待っている。その佇まいと筋状の白髪と穏やかな表情に、不思議な貫禄を感じた。
彼が並んでたのは当日券販売のデスクだった。出演の若い二人と原作のファン層を考えると、意外に思える観客だ。でも、こうして観たいと来てくれるのは誰であってもありがたい。
ロビーにいても特にすることもないし、もうしばらくの間、受付近くにいた。ウェストエンドの劇場と違って、こっちは入場前の荷物検査もないし、直前まで待っても支障はない。
用事があるかのようにスマホを確認したり辺りを見回したりするのが我ながら痛い。待ち合わせの相手もいないのに。
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