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十分前になってやっとロビーに移動すると、客席の入口近くにさっきのシルバーヘアの男性がいるのを発見した。もうほとんど人がいない開演直前、彼は手に公演のプログラムを開いてじっと中身を読んでるようだった。確かに、客席だと暗くて字が見えない。
ふと、彼が顔を上げて私を見た。図らずも、また目が合う。
すると彼は目を細めて、プログラムの開いたページをじっと見つめ直すようにした。そして、もう一度私を見てから客席に入っていった。
……何?
それより、私もそろそろ席に着くべきだろう。
電源を切ろうとスマホをもう一度だけ取り出すと、チャットアプリに京介さんからメッセージを受信してるのに気づいた。
ぎゅっと胸が締めつけられる。
『昨日は悪かった。嫌な思いをさせるつもりはなかったんだけど……ごめん』
傷つくようなことをした自覚はあるのね。
『もうすぐ開演ですよね? 楽しんで。舞子さんの作品なら面白いとわかってますが。もし終演後挨拶に行く予定なら、嫌がられるかもしれませんが弟に僕からもよろしく伝えてください』
……今さら機嫌を取ろうとして。だったら始めからちゃんと向き合ってくれればいいのに。
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