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【六月四日】
私は雨が嫌いだった。いや、今でも嫌いである。たった一日を除いては。
私が雨を嫌うのは、単純な理由によるものだ。ただ単に、靴の中が濡れるのが嫌いだった。
退屈な湿気も、独特な雨の匂いも、地面を静かに打つ雨音も、私は特に嫌いでは無かった。ただ、靴の中を濡らされることだけは我慢できなかった。
いや、これはこじつけかもしれない。ただ雨が嫌いだから、嫌いと思い込んでいたのかも。
どちらにせよ私は、雨が嫌いだ。
けど、君が亡くなった六月四日。この日だけは雨を願うようになった。十年前の君が亡くなった時から、ずっと。
私と君でよく行った深い緑に包まれた森の奥。雨が降ると靄がかかる。なんだか君に会えそうな気がする。靄が私たちだけを包んで、二人だけの世界へ。現実ではない、どこかへ。それはまるで、雲の中。私のいる大地と君のいる天空。この二つの間に優しく浮かぶ雲。私はそこで君に会えると信じてる。
ここ十年間、曇りはあっても雨の日は無かった。今年こそは、雨よ降れ。君に会うために。君に会えないこの乾いた心を潤すために。
空を見上げる私の隣に紫陽花が咲いている。そこに一羽の蝶が舞っている。きっと、君も待っている。この天の向こうで。
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