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第3話「女の価値」
彼女の美しく整った唇から、再び言葉が漏れる。
「だから、仕方ないの。男は、より美しい女に惹かれるものだから。付き合ってた彼女より、私の方が美しく、魅力的だったってだけの話なの……」
はあっと彼女は「美しいって罪ね」とでも言いいたげに、今日、二度目の溜め息を吐いた。
溜め息は幸せが逃げるだとか、周りを暗くするとか、ネガティブなことと嫌われがちだが、彼女の溜め息は、周りをドキッとさせる不思議な効果があるので、あながち悪いこととは、言えないのではと思った。
「確かに、その人間を判断するものは九割は『見た目』って言うものね」
思わず本音が口から出てしまう。彼女の前では、自分の心を偽ることが出来ない。
「そうよ。貴方、分かってるわね」
私たちは日が暮れてきた、幻想的な図書室でクスクスと笑い合った。
私は楽園とは、こんなところではないかと思っていた。そのくらい彼女といる空間は幸せで、特別だった。
***
「後、一割は何だと思う?」
「え? ……才能とか、性格とか?」
彼女はやれやれと被りを振った。
「不正解。『人』としては、それも必要な事かもしれないけど、『女』としては『若さ』よ。性格なんて曖昧なもの、実は大して重要じゃないわ」
確かに、性格なんていくらでも偽れる。「良い性格」か「悪い性格」なんて、人にとって違うものだし、その人間の本性は、本人以外は判別不可能だ。
「それじゃ、男は?」
私は何気なしに、聞いてみた。
彼女はニヤッと微笑んだ。
「『お金』よ。男はどんなに歳をとろうが、稼ぐ力さえあれば、いつまでも『男』として価値が認められるんだから、努力で何とかなる分、女よりずっと恵まれてるわね」
彼女はそんな、恵まれている男どもすら、嘲笑しているようだった。
***
「男にとっての『女』における最も重要な事は『容姿』と『若さ』。先輩のお友達も、唯一『若さ』だけは持っていたけど、若さなんて、誰でも一時は必ず持っているものだもの。それで私に対抗されてもね……」
彼女は確かに美しく正しい。だが今更ながら、彼女のように美しくない自分や、先輩のお友達のことを思うと、少し切なくなった。
「……貴方みたいに美しくない女は、女として価値がないってこと?」
「ないわね」
彼女は、きっぱりと言い放った。
「加えて、生殖能力のなくなった、老害にも「女」としての価値はもうないわよ。まだ初潮の来てない幼女も例外ではないけど、男にロリコンが多いのは、幼女に未来の「女」を夢見てるからかもしれないわね」
私は彼女の口から「生殖能力」や「初潮」や「ロリコン」という言葉が出て来てきたことに、耳を疑った。
ただ、俗物的な言葉を発する彼女の唇も、艶やかで綺麗だと思った。
「それだと、生まれつき生殖能力のない人や、後天的に子供が作れない人も、女としての価値はないって、言ってるようなものじゃない?」
私は少し卑怯かと思ったが、道徳的観念を盾にして、彼女に楯突いてみた。だが――
「ないわよ。それは生物的に「女」じゃない」
彼女は何も悪びれることなく、しれっと言い放ったのだ。
つづく
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