渇き

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渇き

 ふ…と目を覚ますと水に落ちた葉が起こす波紋の様に広がっている天井のカビのシミが見える… もう朝か… と独り言を漏らし乍ら起き上がり、身支度をする。    今日は何事も無く過ごしたい。 けれど、そんな日は無い。 一日足りとも… 案の定、変死の報告。 現場に向かう。    連絡にあった住宅に向かうと新聞受けには数日分が押し込まれている。 大家に事情を話し、鍵を受け取り中に入る。 暖房は点いていない。    冬だが、ここ数日は好天が続き、部屋の中には燦々と光が降り注いでいる。 その光の中、仏さんは居た。 思わず「何て所で死んでんだよ!」 と、心の中で叫んでしまう。    暖かい光を身体全体に浴び、仏さんは半分腐り、半分得体の知れない蟲共の餌となっていた。 二階も改めると、戸の閉められた部屋の中で、四匹の猫が出るに出られず、飼い主と同じ状態で事切れて居た。  御遺体に手を合わせ、納体袋に納める。 事件性は無い。 単なる不審死。 遺体を解剖に回し、調書を書けば終了だ。  だが、こんな毎日の積み重ね、心が渇く… 煙草を吸いに庁舎の外に出る。 寒さに思わず肩をすくめ、ポケットに手を突っ込んだまま、停めていた車に向かうと、不意に署長に呼び止められる。  「君、ポケットから手を出して歩き給え!」 経歴の御立派なホワイトカラー様… あんたは今日俺が一日やった様な汚れ仕事、これ迄やらずに過ごしてその地位まで昇り詰めたんだろうな…  「御立派なこって…。」 思わず独り言が口を吐いて出る。 心が乾く… 誰か…誰でも良い… 俺の心の渇きを潤してくれ… 
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