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希死念慮
喜多原良助、SNS上ではリョウと名乗っている。
俺は常に人目が気になり、怯えながら生きてきた。
死にたいと言う気持ちは、たいてい自分に嫌気が差した時だ。
でも、そんな気持ちがあっても、俺には自殺に持っていくまでのタイミングが無い。
それでも俺は、こんな俺を誰かに救って欲しかった。
だから、俺はSNSにこう書き込んだ。
――誰か、俺を殺してくれ。
と。
それから5分程経った時のことだった。
俺のもとへ、直接メッセージがやってきた。
――直接会いませんか?
そうメッセージを送って来た人のアイコンは、綿の見えたぬいぐるみのイラストだった。
怪しい。
だが、どうせ俺殺されたいんだしな。どんな相手でもいいか。
俺は最低限の金を持ち、指定の場所へと向かっていった。
・ ・ ・
噴水の綺麗な広場、周りにいるのは恋人や友達と待ち合わせをする者達。
俺も待ち合わせには違いないが……そういえば、相手の名前を覚えていなかった。SNSを見ると、変わらぬ不気味なアイコンの隣に、名前が描いてある。
サイコパス・ピーチ
いかにもだが、変な名前だな。
俺は水色ベースに黒と白のチェックが入ったシャツを着て、下は黒のジャージを履いている。眼鏡は黒ぶち、髪は黒髪と、比較的人ごみになじむ格好なのではと思っている。
この格好で待ってますと言ったら、相手からは、「分かりました!」とこれから人を殺すテンションとは思えないビックリマークを付けて返信された。分かりました! と言うからにはこちらの格好は分かったのだろうが、俺は相手の格好が分からない。まぁ、サイコパスとなれば、そんな特徴的な格好はしてこないだろうが……。
「あの、もしかしてリョウさんですか?」
「ああはい……あれ? もしかして、サイコパス・ピーチ……さんですか?」
俺に声をかけて来た人物、それは灰色のブレザーを着た、女子高生……に、見える女子だった。にわかに、彼女が人を殺すとは信じがたい。というか、そうでないと願いたい。
「はい、そうですよ! 本名は、山上桃って言います!!」
え? 本名? これから俺を殺そうとしてるのに、本名言って大丈夫? 通報されるとか思わないのか? 困惑する俺を、ニコニコ微笑みながら見つめる女子高生。
「変な名前でしょ? でも、この方が雰囲気出るかなと思って。長いし恥ずかしいから、桃でいいですよ」
「え、あ、ああ……」
「リョウさんは、リョウって名前なんですか?」
「あ、いや。喜多原良助って言います」
「それじゃあ、良助さんって呼びますね」
眩しい笑顔。名前のことも変だと自覚しているし、これから人を殺す人には、到底思えないが……。
思考が追いつかず、放心状態の俺の手を掴み、桃さんは言った。
「短い間ですが、よろしくお願いします!」
(続)
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