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「雨乞い祭?」
外からは都内より元気な蝉の声。
縁側を開け放して扇風機を回すだけの田舎の大広間は暑くて、額を汗が流れる。
隣で正座しているユウキ君が身を乗り出すと、白い髭をつけた老人がもっともらしく頷く。
「そうじゃ。日照り続きの夏には、その祭りを行い村人総出で雨乞いをするのじゃ」
「どんなことをするんですか?」
老人の言葉も、彼の返しも台本通りだ。
わたしたちが出演したホラー映画『実録・生贄島』のPRで出る、秘境の奇祭を取材するドキュメント番組という設定だから、ターゲットの彼が把握している流れも途中までは同じ。
「ここの海には人魚が居るという伝説があってな。若い男の生贄を投げ込んで雨を呼んでもらうという習わしがあったのよ。ほれ、人魚は嵐を呼ぶといって、漁をするには忌み嫌われるが雨乞いにはうってつけじゃ」
「え。あった、って……今はやってないですよね?」
老人に扮した村長役は笑う。
「今はもちろん形だけ。藁人形を舟に載せて沖へ運んで沈めるだけじゃ」
「でも、なんで男なんですか?」
台本通りにわたしが聞くと村長はこちらに顔を向ける。
「それはな、お嬢さん。人魚っちゅーのは大抵女の姿をしてるじゃろ。だからあんたみたいな美人を生贄にしたら焼きもち焼くかもしれんからな。若い男の方が喜ぶだろうってことじゃ」
ふぉ、ふぉ、と嫌な笑いをしたあとで、村長は彼を見る。
「あんたはその頃なら真っ先に投げ込まれてたじゃろうなあ」
「え……やだなあ。やめてくださいよ」
彼はこわばった顔で笑った。
まさか自分が藁人形の代わりになるというドッキリは知らなくても、この状況だけでもあんまりいい気分はしないだろう。
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