0人が本棚に入れています
本棚に追加
外は、夏の湿気と曇り空だった。
こんな空気。こんな湿気。こんな温度。こんな暗さ。
それらが、カルテットみたいにきれいに重なると、なぜかむかしに見た夢を思い出してしまう。
夢の中で僕は、子供よりも大きくて、大人よりは幼かった。そんな中途半端な僕は、知らない町で、知らない女の子に手を引かれていた。
女の子は明るくて活発で、そして綺麗だった。そんな女の子に、僕は少し気後れしながらも、ちょっとわくわくしていた。
女の子は、その町に詳しかった。
色々なところに僕を連れていっては、色々な話をしてくれた。
僕は女の子の話が、楽しみだった。
女の子は、町をぐるりと囲う溝まで僕を連れて、雨男と晴女の話をした。
この町に住む男の子は、大人になると雨を降らすようになる。
同じように、女の子は、大人になると天気を晴れさせるようになる。
そのバランスが、うまく保たれていて。
雨の日もあれば、晴れの日もある。
むかしは、そうだったのだと、教えてくれた。
「今は違うの?」
そう聞くと、今は女の子しかいなくて、だから毎日晴れが続いている。そう教えてくれた。
それから女の子は。
「昔は、ここに水が貯まっていて。船で町の外に出られたんだ。今じゃ雨が降らないから、町から出られないんだけどね」
そうして、町の外を眺めた。
その横顔は。
嬉しいのか悲しいのか。
よくわからない表情だった。
「――。」
女の子が、なにかを言った。
それを聞き取る前に、夢は終わってしまう。
その夢を思い出すたびに、僕は気になってしまう。
ありもしない、あの町に。
雨は降ったのだろうか、と。
最初のコメントを投稿しよう!