悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

18/20
118人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「別に。それで? ジャック様もやはり、男より女性の方がいいというお話でしたっけ?」 「なっ!? フェルナ……?」 「やはりお世継ぎの事を考えると、いくら身分が平民だとは言え、まだ僕よりも彼女の方がいいのでは?」 「それはどういう意味だ?」 「婚約破棄なさるおつもりなのかと」 「絶対にしない! するわけがないだろう!!」 「……」 「まさかと思うが、不安にさせたか? 嫉妬してくれたのか?」 「別に」 「……そ、そうだな。お前に限ってそれはないか」 「なんで若干嬉しそうな顔したんですか?」  僕は遠い眼をした。ジャック様が慌てたように顔を引き締めた。 「……フェルナは感情が見えにくいからな。俺の事をどう思っているんだ?」 「ジャック様こそ」 「俺は……」  そのままジャック様が無言になった。僕も無言だ。  この日の夜も体を重ねたが、特に会話はなかった。  このようにして二年目の日々は過ぎていき、ついに三年生になった。あと猶予は二年だ。ジャック様とアーネは順調に親しくなっている様子だが、まだ婚約破棄のような話は出ていない。ただ、困った事に、僕が嫉妬しているという噂が出回り始めた。実際嫉妬しているので、僕は困っている。だが命に関わるので、僕は噂の払しょくに努めた。そうこうしていると半年があっという間に経過した。  噂の払しょくを手伝ってくれたのは、エドワーズ殿下だった。僕は日中、ジャック様といる時間よりも、エドワーズ殿下と過ごす方が多い。そのくらい対処しなければならない噂の量が多い。この日も疲れ切って寮に戻った。すると不機嫌そうな顔のジャック様が、長い脚を組んでソファに座っていた。 「フェルナ」 「はい」 「最近、エドワーズと親しいらしいな」 「親しいですね」 「毎日昼食を一緒に食べているというのは事実か?」 「ええ」 「……お前は誰の婚約者なんだ?」 「ジャックロフト王太子殿下の婚約者ですよ」 「では明日からは俺と食事を」 「無理です。エドワーズ殿下と約束していますし」 「……なんでエドワーズなんだよ。俺の何がだめなんだ?」  ジャック様の声が、低くなった。疲れ切っていた僕は、顔を上げ――そして息を飲んだ。あんまりにもジャック様の顔が真剣だったからだ。それも、怒っている顔だ。 「なにがあっても、俺は絶対に婚約破棄には応じない」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!