悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

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 僕はエルレス公爵家に嫡男として生まれた。フェルナ・エルレスが僕の名前だ。  すぐ下には妹、二つ下には弟がいる。  父上はこの国の宰相を務めていて、母は王家の血を引いていた。  血縁関係でいうと、僕と王太子・第二王子・第三王子の各殿下はまたいとこである。  貴族社会というのも面倒なもので、僕は王太子殿下と同い年に生まれてしまったばっかりに、茶会デビュー前から、『お友達』になるべく、王宮に招かれていた。  さてこの王太子――ジャックロフト・キースワード殿下であるが、正直僕は、この人物が嫌いだ。昨日は王宮の庭で一緒に駆けっこをさせられて、僕も我ながらプライドが高いため全力で臨み、結果敗北……そこで僕の放った捨て台詞、「手加減してやったんだ!」の一言が彼の心を抉ったらしく、ジャック様は号泣して、周囲は僕を怒った。  とにかく怒りながら泣くから、たちが悪い。  僕は口で攻撃するタイプだから、相性も悪い。  ……と、ここまでが昨日の僕の本心であった。そしてまた本日も、行きたくないのに王宮へと招かれて、一緒に勉強をさせられていた。  パリン、と。  そんな音がしたものだから、僕は咄嗟に窓を見た。派手に剣が飛んできていた。後に分かったのだが、外で訓練していた騎士団のミスで、その剣は運悪く窓を突き破ったらしい。窓の前には、ジャック様が座っていて、目を見開いていた。そこからは、なんというか反射的に、僕は立ち上がり、ジャック様を抱きしめてかばった。僕の二の腕をかすってから、その剣は深々と壁に突き刺さった。  このようにして王宮は大騒ぎとなった。  僕の胸中も本当にすごい動悸だ。  だが、何も恐怖からではなかった。僕はこの時の衝撃で、思い出してしまったのである。  ここは――……前世で妹が繰り返し遊んでいた乙女ゲームの世界だ、と。  大量の記憶が僕の脳裏を埋め尽くしていく。真正面にはまだ事態を理解できていない様子のジャック様がいる。僕はじっとジャック様の黒い髪と目を見て、それから……まずい、と思った。  僕の役どころは、ジャック様が後に婚約する僕の妹――その後断罪され婚約破棄され、国外追放される妹セリアーナの……即ち悪役令嬢の兄だ……。僕の記憶が正しければ、妹の行いのせいで、公爵家は潰されるし、僕も一緒に国外に追放される。妹を擁護し、こちらも悪役として登場していた。
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