9人が本棚に入れています
本棚に追加
─────── どうしよう。本当に帰ってこないかもしれない。捨てられたかもしれない。
そんな考えが思考を支配する。
拭い去ろうと別の事を考えようとしても、そればかりが脳内をぐるぐると回り、別の事が全く思い付かない。
「……え、あ……嫌だ……」
遂には言葉も勝手に出てくる始末。
動悸が激しくなり、視界が回りそうな感覚に襲われた所で鍵の開く音がした。
足音と違い、鍵は確実に家主の行動だ。
それだけで極限だった身体の不調が一瞬で吹き飛んだ。
先刻とは違う動悸がする。
しかしこの心臓のうるささは嫌いではない。
ドアが開き、家主は朝日を背負った状態で帰宅した。
暗闇に慣れた瞳には朝日は眩しすぎて、待ち焦がれた彼の姿を見る事ができない。
けれど少しでも彼の近くに行きたい。
目を細めながら立ち上がり、駆け寄った。
最初のコメントを投稿しよう!