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私は高校生インフルエンサー、YURIこと、鍵山百合香。リアルでは地元の学校に通う、ごく普通の女子高生。だけど、SNSの世界では総フォロワー数680万人のトップインフルエンサー。Twitter、Instagram、TikTokをメインに活動している。
リアルな世界でも、私がインフルエンサーYURIであることは知れ渡っている。もちろん。学校でも。毎日のように、クラスメイトに投稿を見たと声をかけられる。
「鍵山さん!TikTok見たよ!ダンス、キレッキレだった!俺も真似しようかな。」
「えー!TikTok見てくれたの?ありがと〜。あのダンス、私が考えたの。真似してくれると嬉しいな。」
私がそう言うだけで、クラスメイトはデレデレする。ちょろいもんだ。私は可愛いし、その上インフルエンサーだから、異性を手玉にとることなんて、朝飯前。正直、このクラス、いや、学年全員の男子が私の虜だと思う。まぁ、あの人たちにとったら私は高嶺の花なんだけどね。私ったら罪な女。
「百合香!今日もやる?」
「やるやる!花、早く行こ!帰っちゃうよ!」
放課後に、親友の花と毎日のようにやることがある。
「桃川さ〜ん。もう帰っちゃうの?放課後は青春の主戦場でしょ?」
「少し付き合ってよ、ね。」
花と私が毎日のようにやっていること。それは、ホームルームが終わった途端に部活もやらずに帰ろうとするクラスメイトの桃川さんをすぐに帰さないようにすること。
「、、、、、、うん。」
桃川さんはそう渋々答え、いつものように私達と一緒に屋上に向かう。
「桃川さんは幸せ者だよ。インフルエンサーYURIと毎日のようにこうやって話せるんだもん。ねぇ花。」
「そうそう。桃川さん、今日は早退しなかったね。偉い偉い。」
「でも明日は早退しちゃうんでしょ?」
「、、、、、しないよ。」
「しないよ、じゃなくて、しないです、でしょ。私とタメ口で話せる立場じゃないから桃川さんは。」
「え、待って百合香。私はタメ口でいいの?」
「花はチョーお金持ちのお嬢様だよ。タメ口でいいに決まってるじゃん。」
「あ〜良かった。お金持ちのお嬢様で良かった。じゃないと桃川さんみたいに惨めなボッチの陰キャになるところだった。」
「とういうことだよ。桃川かえでさん。私や花とタメ口で話したかったら、インフルエンサーかお金持ちにならないとね。でも、難しいかな。桃川さんSNSのフォロワー数少なそうだし、親も凡人そうだし。」
「百合香、違うよ。フォロワー数は少ないんじゃなくて、いないんだよ。」
「そうだった!!桃川さんったら、リアルでもSNSでも、認知されてないんだった!」
「あはははははは!!」
家に帰ったら、まずSNSに投稿をする。Twitter、インスタの投稿用とストーリー用の写真をそれぞれ撮って、加工し、投稿する。次に、TikTokに上げる動画を撮る。今日はメイク動画。人気のアニメキャラに似せたメイクをする動画を撮る。編集まで含めて1時間半。最後に最終チェックをして、投稿する。
投稿が終わったら、エゴサーチをする。YURIと調べてっと、、、お。いいコメントばっかし。そりゃそうだよ。だって私はこんなにも可愛いし、毎日頑張ってるんだもん。もっとコメントを見ようと、下にスクロールをしていく。
『YURIのTikTokダンス、本当に自分で考えてんのかな?』
アンチとも取れるコメント。確かに、私は本当は自分でダンスを考えていない。フォロワー数極少のアカウントを見つけて、いいなと思ったダンスをそのままやっているだけ。メイク動画で上げるメイクの方法もそう。でも、この世界では数字が物を言う、数字が正義の世界。フォロワー数50人の人が何をやろうとバズらない。インフルエンサーである私がやることで初めてバズる。それにバレない。フォロワー数50人のアカウントなんて、誰も知らないと同じ。むしろ、あのインフルエンサーYURIに認められたと感謝してほしいくらい。
1日の最後にやること。それは、推し活。世間から見れば私は推される側の人間だけど、そんな私にだって推しはいる。私の推しは、歌い手のMaple。SNSを中心に活動していて、総フォロワー数1500万人の、顔を出さない正体不明のインフルエンサー。性別も年齢も不明。そんな不思議さが受けたのか、日本だけでなく世界中で人気がある。普通、他のインフルエンサーはライバルだ!と思うけど、この人は別。そもそもインフルエンサーではなくて歌い手だし、私にとっては神みたいな存在だから、ライバル視なんてとても出来ない。今日はTikTokライブをやるから見ないと。
「あ!始まった!」
『えー、皆さんこんばんは。Mapleです。今日は、アニソンカバーしたり、オリジナルの曲をやったりします。最後にみなさんが歌ってほしい歌を歌うので、コメント欄に書いておいてください。』
日本語でそういった後、英語でも話し始める。何を言ってるのかは不明だけど、海外ファンのためにやっているのは確か。Maple優しい!
前置きが終わると、ついにMapleが歌い出した。
「今日はアニソンメドレーか。Mapleオタクなのかな?え、待って待って。コメント欄大荒れ。アニソンは日本でも海外でも大人気なのか?」
30分ぐらいアニソンを歌って、Mapleオリジナルの歌が始まった。
「来た!Mapleはカバーよりもオリジナル!」
私はいいねとコメントをしまくり、1人発狂する。
『じゃあ今日はひとまずこれまで。何か歌ってほしい曲ある人いますかね?おー、コメントすっごい来てる。今日は1曲歌わせてもらいます。どれにしようかな?じゃあ、』
私も一応コメントした。だけど、視聴者数は10万人もいる。10万分の1で私を当ててもらうなんて、出来っこない。
『キーユリカさんからいただいたコメントにお応えします。』
「え!!??嘘!!神!!」
私はいいねをしまくり、今回はコメントではなく投げ銭をしまくった。あのMapleが、私の推しが、私のコメントを選んで歌ってくれた!
配信が終わって、寝る前になっても興奮は収まらなかった。とてもとても幸せ。とてもとても嬉しい。Mapleは一生私の推し。そう心に決めた。
次の日。学校でいつものように花と桃川さんをいじっていた時、いつもは黙っている桃川さんが、最後に気になることを言った。
「、、、、、その内、痛い目見るよ。」
痛い目?どういうこと?まさか私に向けてアンチコメントするつもり?YURIはいじめっ子です、とか?ばかみたい。リアルの世界での私のを知る人なんて、せいぜい100人。でもネットでは680万人。リアルで私が何をしようが関係ない。なぜなら私には680万人の味方がいるから。
帰って、いつものようにエゴサーチをする。
「ん?今日はアンチコメント多くない?」
『YURIって学校で同級生いじめてるらしいよ』
『インフルエンサーっていう肩書、乱用してるんか?』
「でも、ど〜せ一瞬燃えるだけ。無視無視。」
次の日。今日は休みだから、少し凝った投稿が出来るぞ。でもまだやる気が出ないな。少しスマホいじろ。
「え、嘘。なに、これ、、、、、?」
『友達いじめてる奴がインフルエンサーとか、信じられない。』
『最低。そんな人の投稿を毎日楽しみにしていた自分恥ずかしすぎる。』
『もうYURIのことフォローするのやめるわ。』
鎮まってない。昨日のアンチコメントが、鎮まるどころか悪化している。私が戸惑っていると、電話がかかってきた。
プルルルル、プルルルル、
「もしもし?百合香?」
「花、やばいよ、私のアカウントが大荒れしてる。」
「百合香、落ち着いて。私のアカウントも荒れてるの。なんか、金持ちを盾にして友達をいじめてるとか、金持ちの暴力だとか、色々言われてる。」
「マジ?でも、少しすれば収まるよ。あ、でも、私はやってない!!的なツイートはしないでね。自分がやったことを認めるようなもんだから。さらに大荒れしちゃう。」
「OK。わかった。じゃあね。」
ふぅ〜。まさか花も叩かれてるとは。発端は誰?なんの目的で発信したんだろう。でもしょうがないよね。私はインフルエンサー、花はお金持ち。羨む人がたくさんいるのはしょうがない。
ピロン。
スマホから通知が来た。
「嘘!!Maple緊急生配信?!最後に重大発表&サプライズあり?!」
これは熱い!20時からの配信らしいから、それまでに投稿終わらせちゃおう!アンチコメントなんてもうどうでもいい!我が最高の推し、Maple!最高だよ!
20時。いよいよ生配信が始まる。胸の高まりが抑えきれない。
『皆さんこんばんは。Mapleです。緊急なのにたくさん見に来てくれてありがとうございます。まずはいつもみたいに歌って、最後にサプライズ&重大発表をしますね。』
Mapleはそう言うと、いつもの配信のように歌い出す。あ~どの歌も素敵!最高!視聴者数は56万人。緊急なのに56万人も視聴者を集めるなんて、もう流石としか言いようがない。1時間、Mapleはたっぷりと歌った。そして、いよいよその時が来た。
『では皆さん。重大発表をしていきますね。まずは重大発表から。』
重大発表!何だろう?新曲リリースしますとか?
『私は、実は、日本の高校生です。毎日学校に通っています。だけど、ボイトレしたり、投稿したり、曲を作っとりとやらなきゃいけないことが多く、授業が終わったらすぐに家に帰ります。それをよく思わない人たちがいて、私は毎日のように、その人たちにいじめられています。これが私の、重大発表です。』
酷い。早く帰るってだけでいじめるとか。いじめてる人は心がないの?てかMaple高校生だったんだ。親近感湧くな。
『つまんなかったかな?重大発表。じゃあ、最後にサプライズして、終わりにしようか。私、Maple、ついに、顔出しします。』
Mapleが顔出し!!!え、待って嘘でしょ?顔出しするってことは、もしかしたら、歌番組に出るようになったり、リアルでライブしたりするかもしれないじゃん!
ドクン、ドクン、ドクン。胸の高鳴りが抑えきれない。Mapleはどんな顔をしているのかな。
「え、、、、嘘、、、でしょ!?」
画面に映ったのは、毎日見てる、見慣れた顔。毎日すぐに帰る、あの人の顔。
『どう?みんな。これがMapleの素顔だよ。最近、顔見たいって人が増えてきたから、もう出ししちゃおうかなって思ったので、顔出しさせていただきました。』
何で、桃川かえでが、Mapleなの?そういえば、Mapleって英語でかえでって意味だった気がする。何で、あんな奴が私の推しなの?
なんかもうどうでも良くなった。これからMapleを推すのかどうかはまた今度考えよう。スマホに目をおとす。それより、炎上が収まっない。収まる気配がなさすぎる。誰だよ最初に書き込んだやつ。特定して潰してやる。下に下にスクロールをしていく。炎上の種を作ったやつを探す。
『私の知り合いがとある総フォロワー数680万人の高校生インフルエンサーにいじめられています。誰か、彼女に注意してほしいです。どうやら彼女はダンス動画もメイク動画も自分よりもフォロワー数が少ない人のものを使い、自分で振り付けや、やり方を考た言って投稿しているそうです。』
そのコメントのアカウント名は、Maple。
「やだやだ信じられない。どうして私の推しが桃川かえでなの?!何で私がMapleから叩かれなきゃ行けないの?!一生Mapleを推すって決めたのに!桃川かえでより、私のほうが可愛いのに!!私のほうが、いい生活してるはずなのに!!」
「あーあ、思っよりみんなYURIのこと、叩いちゃってるよ。少しやりすぎたかな?でも、こっちも顔出しをするっていうリスクをおったし、おあいこだよね。」
私は桃川かえでこと、Maple。YURIこと鍵山百合香に学校でいじめられていた。だから、仕返しをしている。
「歌の練習したり、曲作ったり、投稿したりしなきゃいけないから、私はいつもすぐに帰るんだよ。たまに早退するのもそういう理由。でも、安心してよ、鍵山さん。お金待ちお友達の方も、同じようにするからさ。」
私よりフォロワー数が少ないあなたには、もうこの騒ぎを収める方法はないでしょう。だって、この世界は、
「数が物を言う、数字が正義の世界だからね。」
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