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六月のある日、蒸し暑い日だった。
櫂斗はやっと制服が夏服に変わり、少しは快適に過ごせると、手で顔を扇ぎながら電車に乗る。その年は早く梅雨入りが始まり、しかし校則で夏服に切り替わる日付が決まっていた櫂斗の高校は、もっと臨機応変にできないのかな、と不満を漏らした。
朝の通勤ラッシュで、すし詰め状態の電車も二ヶ月も通えば少し慣れる。心を無にして、カバンを前に抱えて目的の駅まで耐えればいいのだ。
(……ん?)
電車に乗って数分後、櫂斗はある違和感に首を傾げた。電車の揺れに合わせて、お尻に触れる何かがあるのだ。あまりにもさり気ないので、最初は荷物が当たってるのかな、とでも思っていた。
しかし、それが連日となるとさすがに櫂斗は何をされているのか気付く。まさか男の自分が痴漢に遭うなんて、と思ったけれど、気にしなかった。
(しっかしまぁ、毎日毎日オレに手を出すとか……物好きもいたもんだな)
そんな風に軽く思っていて、痴漢相手には好きなようにさせていた。その後、それがエスカレートしていくとも知らずに。
数日後、櫂斗はまたいつものように電車に乗る。その日は梅雨にしては珍しく、天気は晴れだった。
いつにも増して暑い車内に、櫂斗の額にも汗の粒ができる。
(そろそろ来る頃だな……)
櫂斗はいつものように身構えていた。前に抱えたカバンを持ち直すと、暑ぐるしくて息を大きく吐く。
すると、思った通りに櫂斗の下半身を触る手の感覚がした。しかし、いつもと違ったのは、それがお尻ではなく、前だった事だ。
(え? は? 何で今日は前なんだ?)
しかもその手は、ハッキリとした目的をもって触ってくる。揺れに合わせてなどという触り方ではなく、櫂斗の性器の形を確かめるような触り方だ。
(え? え? 何コレ何コレ……)
櫂斗は戸惑った。お尻ならともかく、性器を触られるのはさすがに抵抗がある。身を捩って逃げると、その手はしつこく追いかけてきた。満員電車の中で逃げる事もできず、櫂斗は声も上げられずただただ耐える。
すると、その手は爪で先端を引っ掻くように触ってきた。思わず肩を震わせると、手応えを感じたのか、その手はそれをしつこく繰り返してくる。しかも事もあろうに、櫂斗のそこは少しずつ反応してきてしまうのだ。
(嘘だろっ?)
自分の腕さえ思う通りに動かせない空間で、櫂斗は慌てた。そこに血液が集まれば集まるほど、性感が高まっていくそこは、次第に敏感に感覚を拾っていく。
(やばいやばいやばい……)
櫂斗は次の駅で降りる事に決めた。さすがにこれは放っておけないし、この場から逃げたかった。
次の駅に着くと、櫂斗は急いでホームへ降りる。勃起してしまったそこを隠すように前かがみになり、膝に手を付き疲れたフリをしていると、不意にその腕を掴まれた。
「調子悪いの? 大丈夫?」
見ると、ごく普通の、ワイシャツにスラックスを着たサラリーマン風の男が立っている。
「大丈夫です……」
櫂斗は身体を起こすと、男は櫂斗の腕を引っ張った。
「……こっちにおいで」
「え? ちょっと?」
そして訳が分からないままトイレに連れてこられ、個室に押し込められそうになってやっと、この人が痴漢をしていた男だと悟る。
「抵抗すんなよ、電車の中で感じてただろ?」
個室に閉じ込められ、声を上げられないように手で口を塞がれる。同時に股間を露にされ、萎えかけたそこを擦り上げられた。
「……っ、んっ」
櫂斗の背中が反る。
「この制服……高校一年生かな? ずっと見てて可愛いと思ってたんだ。気持ちよくしてやるから、大人しくしろよ?」
その後櫂斗は、男の好きなように弄ばれた。しかし櫂斗は被害者であるにも関わらず感じてしまい、男に後ろを犯されている間も、その背徳感にゾクゾクしてしまう。自分にこんなにもマゾっ気があるとは思わず、しかし戸惑ったのはほんの一瞬で、この出来事をきっかけに、櫂斗は貪欲に快楽を求めるようになった。
電車で痴漢され、ムラムラした身体を学校で発散する。そんなローテーションができるのに長い時間はかからなかった。男子校だった上に櫂斗は背が低く、幼く可愛い容姿をしていたのもあり、相手には困らなかったのだ。
二年生になって、櫂斗の身体は少し成長したものの、元々顔立ちは整っているため男子校の華となっていた。成績も優秀で、有名な難関大学も軽く狙えると言われる程だった。
そして櫂斗の裏の顔もまた、知る人ぞ知る存在になっていた。誰も何も言わないけれど、暗黙の了解で入れ代わり立ち代わり、櫂斗に相手をお願いする生徒は後を絶たない。その頃には中出しで調子が悪くなる事も櫂斗は学習していた。それなのに。
「二年の堀内って、お前か?」
ある日の放課後、廊下で呼び止められて櫂斗は振り向く。そこには複数人の生徒がいた。校章の色からして、一年生だと分かる。
彼らは「思った以上に美人だな」とニヤニヤしていた。その反応には櫂斗は慣れていたので、なんの用か訊ねる。
「なんの用かって……お前とヤレるって話を聞いたから」
櫂斗は顔をしかめた。一人相手なら隠れてヤレるけれど、複数人はバレるリスクが高すぎる。順番にしてくれ、と言うと彼らは笑った。
「お前、犯されるの好きなんじゃねーの? ドMならまわされるのも好きだろ」
一人がそう言うと、櫂斗はそいつを睨む。
「見つかったらお前らも退学だぞ」
「良いんだよ、この学校つまんねぇし」
「先輩、楽しいコト、しましょー」
そう言って下級生たちは櫂斗を教室に連れて行き、机に押し付ける。
腕を押さえられた櫂斗は、そのうちの一人に制服のボタンを外されるのを、じっと見ていた。
「全然抵抗しないのな」
「分が悪すぎる」
複数人対一人では、抵抗するだけ無駄だと櫂斗は言うと、下級生たちはニヤニヤ笑って二人で櫂斗の乳首を舐めてきた。
「……っ」
櫂斗の背中が跳ねる。
「あ、先輩、いい顔するんだねー。おい、下も触ってやれよ」
(コイツがリーダーか)
櫂斗はそいつを睨んだ。自分は何もしないで人にやらせて、上から櫂斗を楽しそうに眺めているだけなのだ。
「あ、コイツもうたってるぞ、変態だな」
ズボンと下着を下ろした生徒が、櫂斗の下半身の変化を見て笑う。
「ん……っ」
色んな所を同時に責められ、櫂斗は悶えた。極力声は出さないようにしているけれど、どうしても漏れ出てしまう。
「……っ、あ、あ……っ」
「うわー、すげー反応してるんだけど。無理矢理されて感じてんじゃねーよ」
「んんっ、い、いや、それだめっ、だめっ」
櫂斗はいきり立った分身を手で擦り上げられ、早くもイキそうになってしまった。見ているだけで何もしないリーダーの視線を感じる度、櫂斗はゾクゾクと身体を震わせる。
「あ、なんか俺、たってきちゃったなぁ。先に入れていい?」
乳首をいじっていた一人がそう言うと、リーダーがダメだ、と前に出てベルトを外した。
「なーんかお前、いじめたくなる顔をするよな」
リーダーはそう言うと、下着を下ろす。そこはもういきり立っていて、櫂斗の足を抱えると、何の準備も無しに入れた。
「う……っ、ああ……」
櫂斗は圧迫感に呻くと、リーダーはすっげぇ、と顔をしかめる。
「男も気持ちいいもんだな……」
そんな事を言われ、櫂斗はゾクゾクとした。自分を犯している人の、感じている顔を見るのは興奮する。
「あっ、あっ、…………っあ!」
リーダーが動き出した。奥のいい所に当たり、櫂斗はフルフルと首を振る。
「すっげぇ良い、吸い付いてくる……。おい、写メ撮っとけ」
リーダーは仲間にそう言うと、もっと深く、と櫂斗の足を上げる。
「あああっ、だめっ、そんな奥突いたら……っ」
櫂斗は膝が小刻みに震え、次には身体が硬直する。そして意識が一瞬飛び、また一気に身体が弛緩した。
「なんだ先輩、もしかして突っ込まれてイッちゃってるの?」
リーダーが笑う。しかし、そう言う彼の顔も、櫂斗から視線を外せず、じっと見て興奮しているのは明らかだった。
「なあ、俺もう我慢できないんだけど」
仲間のうちの一人がそういって下着まで下ろす。リーダーは櫂斗から視線を外さず、手コキでもしてろ、と冷たく言った。
「あっ、ま、またっ……イク……っ!」
櫂斗が二度目の絶頂を迎えると、後ろも締まったらしい、リーダーも顔をしかめる。
「おい、写メ撮ってるか? 俺の顔は写すなよ?」
「バッチリ」
「あー……こりゃハマる奴がいるの、分かるわ。なぁ、先輩?」
問われて櫂斗は首を横に振った。大抵は興味本位で櫂斗を抱いて、それきりという人が多いけれど、中には何度も来る人もいた。
「お前も……そのうちの、一人になるんだろ? ……っあ! ああああ!」
櫂斗が挑発すると、リーダーは動きを早くした。そこでまた絶頂し、射精してしまう。
「いい度胸してんじゃねぇか、中に出してやるよ、おら!」
彼の動きが止まる。櫂斗は余韻に身体をひくつかせていると、良いの撮れたよーと仲間の一人が言っていた。
当時から、櫂斗はセックスの後に眠くなってしまう体質だったけれど、この時の櫂斗は精神的興奮も相まって、すぐに気絶するように眠ってしまった。
次に櫂斗が気が付くと、周りに数人の先生がいて櫂斗は冷や汗をかく。お腹や、中に入った体液もそのままで病院に連れて行かれ、身体に異常がないか調べられる。この時は、先生の誰もが、櫂斗が被害者だと思っていた。
しかし、相手の名前や特徴などを聞かれ答えると、芋づる式に仲間も学校にバレたのだが、彼らは口を揃えてこう言ったのだそうだ。
櫂斗に誘われた、と。
当然意識を失っていた櫂斗が見つかった時点で、親にも連絡がいっていて、親にも先生にもどういう事だと問い詰められる。すると、保身に走った他の生徒まで、櫂斗に襲われたと言い出す者が現れる。これだけの人数が口を揃えるなら本当なのだろう、と櫂斗は言い分を聞かれないまま退学処分となった。
何で、どうして、と泣きじゃくる母親の前で、櫂斗は何も言えず、ただただ後悔する。そして、まともな恋はできないな、と恋愛も諦め、せめて母親を泣かせないようにしよう、と転校先では真面目にしていた。そして大学で教員免許を取り、今に至る。
けれど、やはり性指向だけは変えられなかった。女性に興味を持とうと思った時期もあったけれど、無理だった。だから、母親とはその手の話題は避け、真面目に暮らしていたのに。
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