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妻の急病
小川 正志はIT会社のSEをしている。
SEの仕事は会社のエンジニアとお客様の橋渡し。納期の調整などもする。
今抱えている仕事は特段、急がされる内容もなく、正志の勤めるIT会社とも付き合いが長く、ずっと継続して行っている仕事の為、納期などで慌てることもない。
納期がバタついたり、途中の調整が上手くいかない仕事を手持ちにしている時には帰宅が24時を回ったりもするが、いくらお役所が労働基準時間を厳しく言っていても、始業時間は変わらない。
そんな正志に毎朝お弁当を持たせてくれるのは妻の芳江である。
夜が遅くなった時には、正志も一応弁当箱を水につけるくらいはするが、家族が寝静まっているので洗う所まではしない。
それでも、朝起きると、弁当はちゃんと出来上がっていて、毎朝持たせてもらえるのだ。
外に出ることが少ないSEの仕事では、社内でお昼を食べる事が多いので、弁当は大変に助かる。
誰かと一緒に食べたいタイプでもないので一人で自分の机で食べる。
カバンに入る大きさでないと困るので、弁当箱を選ぶ時には結構時間をかけて選ぶ。スペアを買っておけば。とも思うのだが、弁当箱も結構ばかにならない値段で売っているので、ついつい一つの弁当箱を毎日回して使っている。
おかずは、前の晩のおかずを上手にリメイクしてあるか、そのまま入っている。肉じゃがなどの時はしっかりとキッチンペーパーで汁をとってあるので汁漏れで悩まされたことはない。
後は一般的な卵焼き。冷凍のから揚げ。ブロッコリーのゆでたの(これは、マヨネーズが周りに着かないようにブロッコリーの傘の後ろにマヨネーズをつけてくれてある。その横にはプチトマト。細菌が繁殖しないようにヘタはちゃんと取ってある。時々、ちくわにきゅうりやノリで巻いたスライスチーズが入っていることもある。断面が綺麗だ。
そして、ごはんは白いままの時もあるが、大抵は海苔弁。それも真ん中の海苔を醤油にしっかりつけて二段に重ねて入れてくれてある。
まぁ、大体がこんな感じで特に凝った弁当でもないが、好きなおかずが多いので正志は満足していた。
ところがある日、妻の芳江が夜中にお腹が痛いと言い出した。あまりにつらそうなので救急搬送してもらうと急性の虫垂炎で、余程我慢していたのだろう、虫垂が破裂して、腹膜炎を併発していると言うのだ。
手術は結構時間がかかった。腹腔内に膿が散ってしまったため洗浄するのに時間がかかったという事だった。
芳江は10日間ほど入院することになった。
我が家には子供はいないので、自分の面倒だけ見ていればよかったのだが、自分でやってみると家事と言うのはなんと煩雑なものだと改めて思い知った。
休日を除いて8日間一人で寝起きして会社に行かなければならない。
芳江が入院した日の朝は、病院の売店でおにぎりと味噌汁を買って会社に行くことにした。
途中家に寄り、前日に芳江が洗ってくれてあったワイシャツを着てでかけた。
芳江は、正志の負担を考えて、病院の事はお金を出せば全部着替えなども貸し出しがあるからと、正志が洗濯物を取りに来なくていい様に、なるべく病院に来なくてもいいようにはしてくれた。
しかし、自分の洗濯物はしないわけにもいかない。
今は仕事も落ち着いているので、毎日大抵20時には自宅に帰れるのだが、それから風呂に入っている間に洗濯機を回す。初日は洗濯機の使い方が分からずに、お腹を切ったばかりの芳江に電話で聞いた。
洗剤と柔軟剤を入れる場所がよくわからなかったのだ。
おまけに洗いあがってみると襟と袖口が妙に汚い。
がっかりしたが、とりあえずそのまま干した。
夕食は、来たく途中でコンビニ弁当を買ってきてあったので、風呂上りにビールと一緒にそれを食べた。
翌朝、芳江が洗ってあったYシャツを着て、ふと気づいた。朝飯を作っていない。
芳江が買ってあった食パンを焼いて、冷蔵庫にあったマーガリンをつけてコーヒーはインスタントもあったのでウォーターサーバーのお湯をいれて飲んだ。
いつもは芳江が簡単だが挽いてある粉を買ってあるので、それで入れてくれたコーヒーを飲んで出かけるのに。インスタントのコーヒーですら、粉の量を間違えたのか妙に苦かった。
何一つまともにできないまま、はっと気が付いた。
昼飯。俺の昼飯。弁当はないし、夜もコンビニだったのに、またコンビニ弁当か?
仕方がない。その日はコンビニでおにぎりと味噌汁を買って会社に行った。
二日続けておにぎりと味噌汁だけの昼食。それにお世辞にも買ってきたおにぎりは家のごはんより美味しいとは言えなかった。
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