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こんなに晴れ渡っているのに、あそこにだけ黒い雲が浮かんでいるなんて。
もう一度黒い雲の方をじっと見つめてみると、風がそよいでいると言うのに、あの雲だけは流れていきません。それに、あの雲だけ異様な程に位置が低い。
「あの雲は……まさか……」
ゼウス様……?
「イリス、急いで車を用意してきてちょうだい」
まるで見せたくないものを隠すかのような雲。
どうか、ゼウス様ではありませんように。
お気に入りの鳥、孔雀が引く馬車に乗り込むと、車が黒雲の方角へと向かって走り出しました。
ひとしきり走ると車が速度を落とし、孔雀たち鳴き声で到着を知らせます。
アルゴス地方は今でもわたくし、ヘラを信仰する中心地。
すぐ側にはわたくしを祀る神殿もあります。
まさかこんな所で浮気だなんて、そんなハズありませんわよね。妻を祀る神殿のすぐ側で情事に励むなんてそんな事……
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