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でも確認は必要です。
雲が一番濃くなっている所へと車を進めて降り立つと、突然雲が散り散りになって晴れ渡りました。
「あっ……!ゼウス様」
「やあヘラ。どうしたんだいこんな所で」
「わたくしを祀る神殿ですから。少し様子を見に来たのです。ゼウス様こそ何をなさっていたのですか」
「ああ、僕かい? 可愛い牝牛がいたからちょっと遊んでいたのさ」
可愛い牝牛ですって?
ゼウス様のおっしゃる通り、傍には白色をした牛が所在なさげにウロウロとしています。
怪しい所はないかとゼウス様をじっくりと見れば、衣が少し着崩れて髪の毛も乱れているようです。肌がほんのりと汗ばんで赤くなっているのは、暑さだけではないでしょう。
この変化をわたくしが見逃すはずなどありません。
「まあ、本当に愛らしい牝牛ですわ! 宜しければその牛をわたくしに下さいませ。ペットにしてたっぷりと可愛がります」
うふふと笑って見せれば、牝牛がビクンっ!と身体を震わせました。
「あー、そう? 君が気に入ったと言うなら断る理由などないよ。繊細な牛のようだから、あんまり怖がらせないであげておくれ」
「ええ、もちろんですわ。女ですもの。万が一妊娠していたら、を想定しませんと。イリス、アルゴスを連れて来て」
「アルゴスと言いますと、百目を持つ普見者の事でしょうか」
「そうよ。ゼウス様から頂いた大事な牛ですもの。逃げ出したり、体調を崩したりでもしたら大変。ちゃーんと見張っていませんと」
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