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「・・・・・・そう、別に私は死神ではありません。違います、ふふふ、何を誤解していらっしゃるんですか。確かに、ここまで亡くなられた方の肖像画ばかり所有していたら、そんなふうに思われてしまうかも知れないんですけど」
隅の方で、何やら喋っている青年がいる。重い影を背負って、大量の額縁に入った肖像画を抱きしめ、ぶつぶつと独り言をつぶやき続けていた。
「何やってんだ、あいつは」
数時間ぶっ続けで独り言をつぶやき続けている青年を指し、彼は眉をひそめた。隣に立つ同僚に、ひそひそとささやきかける。
「なあ、あそこの奴何してるんだ?今まで自分が担当してきた人間の肖像画を抱えたままずっとぶつぶつ言ってるけど」
「あれか・・・・・・まあ、しょうがないかもな」
同僚の諦めたような反応に、彼の中でいっそう疑問がつのる。
「しょうがないって。あいつも俺やお前と同じ仕事して、同じように人間の観察してるけど、何が仕方ないんだよ」
「ん?まあな」
ため息をつきながら、同僚は言った。
「あいつが描いてきた人間、全員あっという間に死んでるんだよ。最近の人類は長寿になって、死ぬとしても老衰とか病気とかだし、観察している間にそんなすぐに死ぬなんてないはずなのに」
そこで一旦言葉を切ると、同僚はさらに続けた。
「おかげで、自分は本当は死神なんだっていう妄想に囚われてる。可哀想に、自分は人間を観察して肖像画を描く、天使お付きの冥土肖像画家だってことまで忘れてるんだ」
(完)
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