Aの音が鳴り響いたら

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 今までになく大盛況だったが、終わってみれば惨めな気持ちもあった。  客の視線は、全て女性に向けられていた。 「あの、これ」  いつになく重い缶を手に取ると、女性に差し出した。 「は? いらないわよ」 「いや、でも」  恥ずかしさが込み上げる。  女性が着ている服は、明らかに高そうだ。  そのうえ、気品があり美しく、絵に描いたような美人だ。  小銭ばかりの御礼を渡すなど、小馬鹿にしているような気さえしてくる。 「あなた、お金が欲しくてやってるんでしょ?」 「いえ、お金のためにやっているわけではなくて、むしろ無い方がいいっていうか」 「ん? どういうこと?」  実家に帰れば、父の遺産がある。  その気になれば、このギターを売るだけでも相当な金額にはなるだろう。  好き勝手に生きることは簡単だ。  でも、それはしない。  それでは父のようにはなれない。  それを伝える言葉を探した。 「……夢を、夢を買いました。だから、お金は無くても大丈夫です」 「は?」
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