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「これ、どうしよう」
演奏後の片付けをしながら、ミドリは電話番号の書かれた紙を見てため息をついた。
「なんだよ、慣れてるだろ? そういうの」
弦を拭きながら裕也はいたずらっぽく口を尖らせた。
「なによ、その言い方」
「だって、そりゃあんな仕事してたら」
裕也の視線の先で、ホステスらしき女性が、客らしき男と腕を組んで歩いている。
「あんた、本当に無神経よね」
「ミドリこそ、図太い神経してるじゃん。突然入り込んで来て」
「……悪かったわね」
差出人は、男の客ではあった。
しかしそれは裕也の予想と違い、紙には音楽関係の社名も書いてあった。
「じゃあ、電話してみよっかな」
いたずらっぽく口を尖らせる。
「やめとけって」
「なんでよ」
「だって俺、なんかあっても守る自信がないから」
「な、なによそれ」
「怖いじゃん、こういうの」
「……守ろうとは、してくれるんだ」
「そりゃあ、居なくなったら困るからな」
「……そう」
ミドリは紙をクシャクシャに丸めてポケットに入れた。
男がミドリにだけ紙を渡した理由は、察しが付いている。
夢への一歩が遠のいたが、夜の街の明かりを眺めるミドリの表情は、明るかった。
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