影の旅人

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影の旅人

【むかしむかし。ボク達の生まれたこの世界は十一体の神竜様によって創世されたと伝えられてきました。  でも、実際に創世に関わった神竜様は十体。最後の一体、いわば末っ子神竜は汚れ仕事を引き受けさせるためだけに、神の時代の終末に追加で作りだされたのでした。】  ボクの名前はノア・グラスブルー。その、末っ子神竜様の生まれ変わり。同じような生まれ変わりはボク以外にも何人かいて、ボク達は末っ子神が負わされた汚れ仕事……神殺しの罪を償うために生まれてくる。殺めた神竜様一体につき、ボク達ひとりずつが神罰を受ける運命として。 『ノア、起きろ』  ある日、ボクは馴染みのない声に起こされた。その声の主は格上の神竜様の生まれ変わりのひとり。名前はコウ・ハセザワ。  彼が言うには、死後の人びとが安息に過ごすための「(死者)の世界」を作った。彼の神竜として行使出来る能力によって。その名の通り影の世界は最初は本当に影でしかなくて、コウと協力する神竜様達は数百年がかりでコツコツと、この世界を(生者)の世界そっくりになるよう地道に作り変えていったんだとか。 『影の世界が実際に安息として機能しているのか、生者の目から見て問題はあるか確認したい。その世界にいる生者はノアだけだからおまえに頼むしかない。てなわけでよろしく』 「えぇ~……」  めちゃめちゃ横柄な頼み方だけど、ボク達は一番格下の神竜なので、格上からの命令に拒否権はないのだった。  ボクが目覚めた場所は影の世界の青空高くに浮かぶ、この世界の地上からは視認出来ない灰色の道。馬車が二台分すれ違って余裕があるくらいの道幅で、小石よりもさらに小さな粒子めいた灰色の石を圧縮して固めたみたいな、硬~い地面。両側に、転落防止用の白く塗装された鉄の柵がくっついてる。 『そこは、世界の形を上空から確認するために作った。実質、ノアのためだけにある道だな』 「この道の先には何があるの?」 『……この道の果てにノアが辿り着く頃には、この世界も終わる。そうなったらノアもこの務めから解放されるし、その間際にはノアが会いたがってるあいつにも会えるだろう』  はい、前提として、このコウって人は大嘘つきなので、この説明も嘘まみれだった。でも、そんなことを知らないボクは今後七百年に渡って彼の言うことを信じてた。いつかは終われるから、その時までは頑張ろう、ってね。ボクにそう思わせるための嘘だったってわけ。  この道の終わりで世界の終わり、そこにはコウもいるって言ってたけど、まぁそれはボクにとってはどっちでもいいかなって感じだった。会えたら七百年分の恨み辛みを言葉だけでなく体でもぶつけてやろうって思ったくらいで。
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