影の旅人

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 溜息をつきつつ灰色の道を歩いていたら、ほんの少し先で人影を見つけた。コウは、ボクのためだけの場所って言ってたのに?  その人は十五歳の成人年齢を迎えているのかいないのか、判別し難い年代の女性。黒い服と帽子に、桜色の髪。そういった、諸々の記号的な要素でいえば見覚えのない人だったけど……。 「……お母さん、なの……?」  自分の覚えている母の印象より遥かに若返っていたとしても、顔の造り自体は同じなので、そう思った。母はボクがこういった立場になることを察して、魂だけになってボクについてきてくれたんだ。影の世界は仕様上、ごく普通の人間だった母には入ることが出来ないから……。 「私はヒナ。今の私は記憶だけの存在だから、あなたが母と呼ぶべき者なのかわからない」  ヒナというのは母の通名。見た目も、ボク達が生まれる以前なのか以降なのか曖昧だし。ボクの覚えている、母親としての彼女の態度とはまるで違うし……確かに、母と呼んでもしっくりしないかも。そう思って、ボクは彼女を「ヒナ」と呼ぶことにした。呼びかけても話しかけても、めったに返事をしてくれない。ボク達の世界の生き物は、魂に記憶が、肉体に感情が宿ると伝えられているので、ヒナみたいに魂だけになってしまうと感情あるやり取りはほとんど出来なくなってしまうんだ。  影の世界でボクがひとりぼっちにならないように。そのためだけに母がこんな風になってしまったことを思って、ボクは再会したその直後に一度だけ、気が済むまで泣いた。  ヒナとは早々に会えたから、コウの言ってた「ボクが会いたがってるあいつ」っていうのが誰なのかは、ほぼ確定したと思っていいはず。  ボクには、赤ちゃんの頃に生き別れた、ソウって名前の双子の兄がいる。ボクは、生まれてから二十年生きると神罰を受けてしまう体だったので、二十歳になるまでにどうにか兄に再会したい。死ぬ前に、一目でもいいからソウの顔を見てみたいなって思ってたから。  この道の先にいるのがソウでないとしたら、他に可能性があるのは父かもしれないけど……たぶん、父はボクに会いたいとは思ってないと、ボクは思うから……。 「コウ~? さっそく問題見つけたよ。この世界、どんなに歩いても空が青いまんまでずーっと変わらないよ~?」 『影の世界には太陽がないから、色が変わらないのは仕方ない。「空」って概念を作るまでが現時点の限界だ』  夜空、曇り空、赤い空。あるいは雨模様? どんな状況で空を固定するか、ひとつしか選べないんだったらまぁ、青空を選ぶのが無難だよね。
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