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ソウと約束
世界の終わりを目前に控えた、ボクの、七百年の旅の果て。
「ふぅ~ん……それでノアは、フウとずっと一緒だったんだな」
かつてコウが言ってたように、ボクは道の途中で会いたかった人……双子の兄、ソウに再会出来た。でも、ソウに会えたことでヒナは「目的を果たしたから」。フウは「影の世界にいるフウは本当のフウ・ハセザワの影であって、本人じゃない」と知ってショックを受けて。ふたりとも、世界の終わりを待たずに一足早く、世界から消えることを選んでしまった。
七百年も旅を共にした人達とさよならして、もちろんボクは寂しかった。けど、ボクだってどうせ間もなく終わるんだから同じことだよね、とも思った。
ボクが影の世界にいた七百年、ソウは外の世界を旅してた。その旅でソウが見た風景が影の世界で反映されるようになっていた。だから、それぞれの街で「ソウにとって最も印象的だった一日」で固定されてしまう。
「いくら世界一の桜の名所って言われてるからってさぁ。シェーラザードだって、桜の季節以外も良いところたくさんあるんだよ?」
ボクが赤ちゃんの頃から十九歳まで育ったシェーラザードは牧歌的な農産国。三月から四月にかけて、国中に植わった桜の木が一斉に開花する。そのおかげで桜の季節だけは観光客が集中するんだけど、住んでる立場からするとその季節以外は見どころがないと評価されてるみたいでなんだかなぁって思うんだ。
ボクは空の道をソウと歩きながら地上を眺めていて、ちょうど下にシェーラザードの桜が見えてきたから、階段を出して下りてみることにした。相も変わらず、今日も例外なく、満開の桜に迎えられる。
ちょっと前に、この世界にも太陽がやってきて、昼と夜を繰り返せるようになった。ボク達は夜桜の下を歩きながら話し続ける。
「普段はどこへ行くのも風の吹くまま~って感じだったけど、シェーラザードだけは、一緒に旅してたイリサが桜が咲いてるのを見てみたいっていうからさ。その季節に着くようにきっちり計画して行ったんだ。それが案外苦労したから、ついつい、その時の印象ばっかり強くなっちゃったのかもしれないなぁ」
「ソウもひとりで旅してたわけじゃなくて、誰かと一緒だったんだ。良かったね」
「うん。ひとりも悪くないけど、誰かと一緒の方が楽しいな」
「だよね~」
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