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シェーラザードの中心部は小高い丘になっていて、その頂にはアソッカの大樹が佇んでいる。この国の人は誕生日とか結婚とか、お祝い事のある日はここに集まって宴会する人が多い。
その丘のふもとに、この国で最も大きな桜の木が生えていて、ボクが両親と一緒に暮らしていた小さな家はその隣に建っているんだけど……。ボクが知っている同じ場所にはもう、木も家もなくて、墓石があるだけだった。なんだか寂しそうだけど、手入れされた形跡はある。……もしかしたら、お父さんがたま~に見に来てくれたのかも。
影の世界は、ソウが見た旅の風景。だから、ソウが来た時には桜の木はとっくに寿命を迎えていて。ボク達の家も空家になってから長い時が経っていて。どっちも、安全のために伐採、撤去されたんだろうな。
「残念……ボク達の暮らしてた家を、ソウに見せたかったな」
お父さん達が言うには、ソウとは子供の頃に再会する約束になってた。でも世の中の混乱でそれが叶わなくて。もし、問題なく再会出来ていたら、ソウも同じ家で暮らすはずだったんだ。両親と双子、家族四人で。
「これ、お母さんの墓だったんだ。……想像もしなかったな、そんなの」
ソウはボク達がシェーラザードで暮らしてたことも知らなかったみたいだから、旅のさなかにこれを見ても、まさか自分の母が眠ってる場所だなんてわかるはずがない。
ボク達はしゃがんで、お墓に手を合わせた。
「ノアは、影の世界を出たらどこ行きたい?」
「え? ……出るって?」
「ん?」
「だって、もうすぐ世界は終わるんでしょ? ボクはここで終わりを迎えるつもりでいたけど……」
ボクは七百年、終わりを目指して旅してきた。ボクがここで生きてる間、外の世界ではボクの仲間がひとりずつ、神罰を受けて命を終えてきた。同じ立場のボクだけが何の報いもなく生きるなんて、許されるはずがないから。
フウは「せっかく助かったんなら無駄に死ぬことない」って言ってくれたけど……ボクはやっぱり、そんな簡単に割り切れない。自分だけが安全圏にいて、ボクが償うはずだった神罰を肩代わりして亡くなった人が、確実にひとりはいるんだっていうその事実を。
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