ソウと約束

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「それに、さ。ボクってもう七百年生きてるし、これ以上生きたいって望むなんて普通に贅沢すぎじゃない? 普通の人間は確か、五十年そこそこ生きるくらいなんだよね?」 「人生五十年とか言われてるけど、オレが見聞きした範囲だと六十くらいまでは生きてる人が多かった。長生きだったら七十とか」 「ていうことは、長生き出来た人の十倍もボクは生きてるじゃない」  人間性疑われると思うからこんなこと口には出さないけど、七百年もこんな世界で漫然と過ごしたものだから……ボクはもう、すっかり、生きるのに飽きていた。ヒナやフウがまだ一緒だったら違う気持ちだったかもしれないけど、今はボクはひとりだから。自分自身が思うように終わりを決められるし、そうしたいと思う。 「普通の人より長く生きられたから……生きられた時間の長さだけ、普通の人より恵まれてたなんて言いきれないと思う」 「そう?」 「オレは、そういう人を何人も見てきた。生きられた時間が短くても、その時間に目いっぱい、やりたいことやり尽くして。充実して、満足して。そうやって生きた人達を」  ……いくら長い時間生きてたって言っても、ボクがそんな風に過ごせたかっていうと。……まぁ、そうじゃないよね、ってことになってしまうかもしれないけど。 「ノアだってわかってるだろ? いくら七百年旅したって、この世界で見られる景色は全て影で、作り物だから。そんな場所で七百年生きたからって、十分なわけがない。……そんな世界にノアを閉じ込めたのはオレ達だから、どの口が言うんだって思うかもしれないけど。こうやって生きてるノアに会えて嬉しかったから、オレはもう後悔しないし、まだまだやりたいことがいっぱいあるから世界を終わらせたりもしない」 「やりたいこと?」 「ノアと一緒に、外の世界を歩きたい。本物のシェーラザードの良さを教えて欲しいし、オレも、自分の育ったアルディア村の本当の楽しさをノアに見せたい」  避暑地だったら水の都ノエリアックが綺麗だったし、港町だったらミラトリスの商店街が賑やかで楽しかった。ソウが例に挙げた場所はどこも、影の世界の中でだったらボクも見た国々だけど……。 「外の世界を実際に歩いたら、ノアにもオレの言ってた意味がわかるよ。だから何も心配しないで、胸張って外に出たらいい」 「そうかなぁ……」 「そうだよ」 「じゃあ……約束、してくれる? 外に出るなら、ソウと一緒だって」 「うん。約束する」  この時、ソウがどこまで知っていてその「約束」をしたのか、ボクには知る術がない。守れないとわかっていてあえて、嘘の約束を交わしたのか。守れないとは知らなくて、心からそう願っていたのか。
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