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翌朝
ピピピピピ。
ピピピピピ。
ピピピピ…ピピピピピピピ!
う、るさいなぁ…
わかってますよ、起きますよ、仕事仕事。
あれ?瞼が重いな…
なんだろう…寝返りが打てない。
頭さえ上げれば目が覚め…
なんだ?全身におもりがぶら下がったみたいな。
カーテンの隙間から漏れる朝日に目が眩んで、再び目を閉じ布団に潜り込んだ。
心臓の高鳴りが聴こえる。手先が異様に冷たいのに、首から上だけのぼせた感覚にとらわれる。
とりあえずアラームを消さなきゃ…
スマホスマホ…
スマホの画面には、今日の予定が映し出されていた。
『10:30〜辻咲商事と商談』
商談…商談て何?何だった?
私の人生にそれほど大事なものだったっけ?
なんだか吐き気がする。
まだ眠いのか、身体は全く動かない。
調子が悪いのに、なぜか普段からの偏頭痛がしないのは不思議な感じだ。
それでも、出勤という名の現代病のせいで、過ぎていく時間に焦りを感じるのだけれど。
どうしても起き上がれない自分に腹が立つ。悔しさから涙が滲む。
昨日は寂しくても泣けなかったのに、なんだこれは。
頑張ろう。頑張らなきゃ。
思えば思うほど、自分が追い詰められていく気がした。
あと、もうちょっと。
やっと開いた眼で時計を確認する。
メイクにかける時間を削れば、なんとか間に合うか。
全身の力を振り絞って立ち上がり、洗面所へ。
バタン!
よろけたタイミングで冷蔵庫に体を打ち付けた。
ガラガラガラ!
冷蔵庫の扉が開き、中身が床に雪崩こむ。
これ、どうすりゃいいのよ。
時間がないのに、ぶちまけた牛乳を拭かなきゃならない。
もうパニック寸前だ。とりあえず、流しの布巾をホワイトレイクに被せて、応急処置を施し、洗顔!メイク!着替え!
あれ?私、パンツ履いてない。
そういえば、昨夜…洗濯機を回したまま眠っちゃったんだ。
あ"あ"あ"
洗面台を前にして、崩れ落ちる。
私の中で何かが切れる音がした。
ふらつきながら、徐ろにベッドに向かう。意味は無い。
途中、牛乳をたっぷり含んだ布巾が目に入った。
ちゃんと拭かなきゃな。
そう思いながらできた事といったら、布巾をただ、ぺちゃぺちゃと、手のひらで叩くことくらい。
ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ。
この臭いは、ポン酢もブレンドされてるな、とか変に冷静な自分がいる。なのに、布巾を叩く行為から離れることができなかった。
ポン酢・オ・レ、が腕や顔やお気に入りの部屋着に飛び散り、地獄の様相を醸し出している。
何時間過ぎたかな。
気がついた時には、小学生の下校の声が飛び交っていた。夏休み前だから、きっとお昼前くらいなのか。
ああ、きっと何もかもダメになったんだろう。
商談は延期か…もしくは破談だろうな。
もう、謝る勇気すらないよ。
おぼつかない脚で、買い物へと出かける。
オ・レは放置したままだ。一度パニックの波が襲ってきて、大事にしていたスタンドミラーを投げつけ、破壊してしまった。
辛い時にはお薬で治そうね〜
なんて、またまた変な歌が思い浮かんだよ。
頭がはっきりしないまま、鎮痛剤をたっぷりと口に含み、そのまま駐車場の隅で意識を失った。
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