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壊れたモノ全て
いつの間にここに帰って来たのだろう。久しぶりの自室。
実際何週間も留守をしたわけではないけれど、やっと帰って来れたと特別な感情に包まれた。
落ち着いて室内をを見渡すと、やっぱり散らかったところがもとに戻っていたりはしない。
割れて飛び散った鏡の欠片を、どうやって片付けようか。
牛乳布巾には蝿がたかり、ウジが沸き始めている。
サイアクだ。
それでも状況をこれ以上悪化させるわけにはいかない。
まずは冷蔵庫付近の掃除だな。
台所洗剤を床一面に注いでから、ビニール手袋を使って固形のものを取り除いていく。
全部ゴミ袋行きだ。
部屋の有様に呆然としてしまったけど、流石に不衛生なのは我慢し難い。
それに、一度入院して脳みそもリセットされたのかな、完全に元通り動ける訳ではないけれど、最低限の仕事はしようと思えた。
小一時間ゴミどもと格闘して、私の生活空間における平穏は取り戻された。
あ…
きんちゃん2世が…
部屋の隅に置いてあった金魚鉢の中に、一匹の出目金がぷっかり浮かんでいる。
魚なんて数日餌を与えなくても平気な筈なのに…
部屋で暴れた時に、エアーポンプの電源が抜けてしまってたんだな。
私は、自分のストレス発散のために、ひとつの命を台無しにしてしまったんだ。
その瞬間、今まで流せなかった涙が、自然と溢れてきた。
自分の命は粗末にする癖に、ペットの金魚の死には敏感に反応してしまうのだ。
そう、きんちゃん2世には思い出があるんだ。
前の彼氏とお祭りに行った時、金魚すくいでたった一匹だけ、どうしても欲しかった赤色の出目金を見つけた。
その頃は貧乏でね、何回も金魚すくいに挑戦する私に、その都度小銭を渡してくれたりなんかして。
それでも、手先が不器用な私を見かねて、彼氏がチャレンジしたら一回で捕まえられて。
もっと獲らないの?って聞いたら
持って帰れないし、それだと可哀想でしょ、って。
今ならわかるな。
無闇に命を扱って、大切な何かを失ってしまう残酷さを。
そして、自分自身もその罪を…自分自身の命を断とうとする、悲しい行動をとってしまったことを。
そうだ、もう二度と危険なことはやっちゃダメだ。
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