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閑話① 恐怖の大王
コルネリアとクリスティーナが王宮の庭園にてお茶会を楽しんでいる時、国王の話で二人は大変盛り上がっていた。
「やはり、幼少時のレオンハルト様が恐れるくらいですから、すごく怖いんでしょうか」
「まあ、見た目がね~」
そう、まずは見た目が怖がられる一つなのだが、実はレオンハルトの場合はそれだけではなかった──
15年前──
奇しくもコルネリアがルセック伯爵に引き取られていた頃のお話である。
レオンハルトは王宮で開催されていたごく一部の王族関係者で開かれていたお茶会に参加するために庭園にいた。
王妃が主催であるため、ほとんどが宰相夫人や騎士団長夫人、さらに公爵家の夫人、そして彼女たちの子供が集まっている。
「今日はお呼びいただき、ありがとうございます」
「いえ、ぜひ楽しんでいってくださいませ」
そんな会話が飛び交う中、レオンハルトは迷子になったクリスティーナを探していた。
二人でかくれんぼをして遊んでいたのだが、庭園の隅から隅を探してもみあたらない。
こうなれば、もう王宮内にいるしかないと、レオンハルトは彼女がよくいる書庫室の方へと向かった。
(もう、どこに行ったんだよ、クリスティーナ)
レオンハルトは数十分見当たらないことに焦りを感じて、王宮内の廊下を駆ける。
そんな時だった、彼が国王に声をかけられたのは。
「廊下を走るなっ!!」
「ひいいー!!」
突然の大声かついきなり首根っこを掴まれて、そして抱えあげられたまま顔を近づけられる。
レオンハルトの目の前には、国王の鋭い目つき、そして皺の寄った額、足蓄えられた髭があり、その顔は恐ろしい表情に見えた。
「あ、あ、あ、……申し訳ございません、国王」
なんとか勇気を振り絞ってその言葉だけは言ったものの、もはや身体が固まってしまって動けない。
もうその目には涙があふれて、そして零れている。
国王がようやく彼を解放した瞬間に、彼は脱兎のごとく国王から逃げていた……。
「それで、レオンハルト様は……?」
「私は庭園にずっといたんだけど、ものすごい勢いで王宮内から出てきてね? もうわんわん泣いてて……」
「なるほど……」
「王妃様が事情を聞いてなだめたんだけど、それからね、王族に近しい者は皆、彼の事を泣き虫レオちゃんと呼んでたわ」
ああ、ダンスパーティーで言われてた異名はそこからだったのか、コルネリアは納得した。
「まあ、もうそれで落ち込んで落ち込んで仕方なかったのは、お父様なんだけどね」
国王はただ単に彼に怪我をさせまいとそうした対応をしたのだが、その愛情が裏目に出てしまい、数日間落ち込んで仕事にならなかったそうだ。
その後、泣き虫レオちゃんと呼ばれたレオンハルトは、心の中で国王のことを「悪の大王」とこっそり呼んでいた。
「でもまあ、嫉妬するくらいお父様はレオンハルトのことを気に入っているのよ」
「ええ、私もそんな風に感じました」
レオンハルトの過去、そして国王の話を聞き、コルネリアはなんとも心の中がほんわかしたのだった──
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