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 二日目の撮影も順調に進んだ。ジューンが現場をリードし、彩も尻上がりに芝居が良くなった。カメラマンの早田は「見違えたね。やっぱりメジャーの子は凄いよ」とべた褒めしている。俺は彩から、ある事を聞いていた。  彩の家族は、彼女がまだ幼い頃に母が家を出て、父と、父の愛人だった女性との生活だった。愛人との生活がうまく行く訳もなく、思春期を迎えた頃には夜の街に出て悪い知り合いの家を転々する事になっていった。後はお決まりのコースだった。薬物に走る事こそ無かったが風俗の道に入り、二つの店でナンバーワンになった後、その肩書きを引っ提げてこの業界に自ら入ったそうだ。勿論、現在倉科彩として公表しているプロフィールは嘘っぱちだった。  彩は父を既に喪っている。実の親が病で瀕死だった時、彼女は客に抱かれていた。その後、一度堕胎している。  二日目の夕食の不味い海苔弁当を食べながら、俺はその話を彩本人から聞いた。 「なんで俺にそんな話をする?」 「何となく。後藤さんだから、かな」 「何だそれ」  俺が空になった容器を手に立ち上がろうとした時だった。 「父に似てるの。後藤さん」  彩は俺を見てはいなかった。俺も聞こえなかったふりをした。
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