事故

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事故

 カメラの早田と竹原は、必要ない外景が映り込まないようにカメラ位置やアングルの打合せを続けている。俺は駐車場内の空き缶やゴミを掃け、雨の降り出し部分に使う大きめのジョウロに水を溜めたりしていた。  彩は日傘をさしながら、竹原たちの打合せを聞いている。真剣な横顔は、初日の彼女とはもう別ものに見えた。  俺はあのベテラン監督が事ある毎に言っている言葉を思い出した。 「すべての女は女優になれる可能性を秘めているが、女優として生まれるのではない。女優になるのだ」  準備はほぼ整ったが、肝心の放水車が来ない。予定よりも三十分は遅れている。撮影自体は現場での撮りこぼしは無く、音録り以外は今日でクランクアップになる予定だった。その為に、江尻達は綿密にスケジュールを策定し、最後にこの雨のシーンを組んだのだ。  ずっとスマートフォンを操作していた小山が、俺を見た。 「首都高で事故だそうです。通行止めらしくって」 「嘘だろ、なんで早く出てねぇんだよ」  竹原と早田が顔を見合わせる。 「他の現場からこっちに向かう途中だったらしくて」  彩の表情が動いた。動揺しているようだ。
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