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「あとどンぐらいかかるって?」
「なんか、トラックが横転したとかで、まだかかるだろうって」
俺は天を仰いだ。青空に、所々のんびり雲が浮かんでいる。
「ツイてないね」
相手役の津上は昨夜のジューンとの絡みがあってほぼ完徹に近かったから、ロケ車に早々に退散していった。彩はまだ駐車場の真ん中に突っ立っている。傘が動いて、彩が空を見上げたのが分かった。俺は彩のそばまで歩いて行った。
「昔な。偉い映画監督が、『あの雲、どけて来い』って助監督に言ったんだってよ。いい気なもんだよな」
俺の軽口には彩は乗らなかった。その顔は、少し蒼ざめているようにも思えた。連日の深夜に及ぶ撮影は、AVよりもある意味きついかもしれない。だが、彩は疲れている訳では無かった。
「雨、降ればいいのに」
彩は芝居をしたいと思っていたのだ。このシーンを、死んでしまった父を想い、泣くシーンを女優として演じたいと思っていたのだ。
「いいツラになってきた」
彩の横顔の真摯さが眩しくなって、俺はまたゴミ拾いを始めた。
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