芝居

1/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

芝居

「カット!OK!」  竹原の声が響き、現場には安堵が漂った。竹原を見ると、僅かに頷くのが見えた。二分ほどはあろうかというやり取りだった。津上は巧く相手の芝居を受けて、都度抑揚を入れて調節してくれていたのは分かった。 「よし、切り返し行くぞ!」  俺は少し声を張り、次のカットの準備に入ろうとした。その時、彩が俺のTシャツの裾を軽く引っ張った。 「なんだ?」  俺は最初に顔を合わせた時以外は、彩とは仕事上の段取りしか話していなかった。元より俺は外様で、竹原組という訳でもなかった。 「あの、」  探るような眼で、彩は俺を見た。 「今の、どうだったかな?」 「俺は監督じゃねぇ。竹原に訊け。それにOKが出てんだったら、それでOKなんだよ」  彩は納得がいかない様子だった。 「後藤さんの印象としては、どう?」  俺は手を止め、少し考えてから彩の眼を見つめた。 「台詞は言えてたよ。が、ただそれだけだ。芝居になってない。芝居ってのはな、自分の台詞を言い合ってればいいってもんじゃないんだ。これはAVじゃないんだからな」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!