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芝居
「カット!OK!」
竹原の声が響き、現場には安堵が漂った。竹原を見ると、僅かに頷くのが見えた。二分ほどはあろうかというやり取りだった。津上は巧く相手の芝居を受けて、都度抑揚を入れて調節してくれていたのは分かった。
「よし、切り返し行くぞ!」
俺は少し声を張り、次のカットの準備に入ろうとした。その時、彩が俺のTシャツの裾を軽く引っ張った。
「なんだ?」
俺は最初に顔を合わせた時以外は、彩とは仕事上の段取りしか話していなかった。元より俺は外様で、竹原組という訳でもなかった。
「あの、」
探るような眼で、彩は俺を見た。
「今の、どうだったかな?」
「俺は監督じゃねぇ。竹原に訊け。それにOKが出てんだったら、それでOKなんだよ」
彩は納得がいかない様子だった。
「後藤さんの印象としては、どう?」
俺は手を止め、少し考えてから彩の眼を見つめた。
「台詞は言えてたよ。が、ただそれだけだ。芝居になってない。芝居ってのはな、自分の台詞を言い合ってればいいってもんじゃないんだ。これはAVじゃないんだからな」
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