『雨降らし』

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「江尻が段取りつけてくれたんだ。八潮のロケセットのボロ屋敷あるじゃん?あそこのそばに時間貸しの駐車場があるンだ。そこを押さえた」  運転席のセカンド助監督、小山が続いた。 「放水車、エヌケーさんに半日だけって頼み込んで。江尻さんと僕で」 「お前は頭下げてただけだろ」  竹原が笑った。  江尻は奴なりに、チーフ助監督として今回の作品への強い想いがあったのだろう。もしかすると、倒れたという父親の状態を、何か伝え聞いていたのかもしれない。 「まぁ俺は俺で、今回は気合入ってるから」  飄々とした口調だったが、竹原の言葉には力があった。やはり一般作にのし上がりたい気持ちがあるのか。ピンク映画の狭い世界で評価を得ても、それは井の中の蛙に過ぎない事を、竹原も江尻もよく分かっているのだ。  俺は東京に逃れるようにやって来てどうにか潜り込んだこの世界で、何かを得ようと思った事は無かった。名を成そうなどとは考えた事も無かった。俺はそれに値しない男だとも思っていた。自分が、逃げ出した男だからだ。
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