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 絡みの撮影も彩の仕種に艶が出始め、現場の流れとしてはかなりいい状態になっていた。  江尻から一度電話があった。 「どうです?現場は」 「お前な、俺がいるんだから大丈夫に決まってんだろ?親父さんの側に付いててやれ」 「俺も彩ちゃんの芝居、見たかったな」 「バカ。お前の分、俺が見といてやる」  まだ話したそうな江尻の言葉の途中で俺は電話を切り、現場に戻った。撮影最終日、三日目の今日は、『雨降らし』がある日なのだ。彩にとっても正念場となる。  長谷川美沙との母娘のシーンを早々に撮り終えて、俺たちは午後からの『雨降らし』の為に現場である八潮のロケセットそばの時間貸し駐車場に移動した。  八潮の空は、撮ろうとしているシーンには似つかわしくない晴天だった。駐車場は全スペースを五時間、貸切で使用する。周辺までアスファルトを濡らしても良いという条件は、ありがたいものだった。近隣に住宅も少なく、苦情は来ないと小山は胸を張る。
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