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修行中・2
杖の先端がポウッと光る。明快な発音で呪文を唱え、魔術文字を宙に描く。文字は金色の光を放ち――。
「……雨よ、降れっ!」
杖をクルリと一振りする。文字はパアッと鋭い銀色の閃光を放って消えた。
「……なに、これ? あんた、なにやったの?」
「うぅ……分かりません。でも、降らないんですぅ、師匠ぉー」
典型的な失敗とは、現象が違う。あたしの放った魔法は、一見受理されたみたいなのだが、肝心の雨が落ちてこない。
「こんなの、知らないよ? 間違っていたら、光らないはずだし、術返しも起こらない」
分かっている。術が成功したら、文字は金色に輝いて、溶けるように消えるはずだから。そして、もしも失敗したら、注ぎ込んだ魔力と同量の衝撃が術者に跳ね返ってくるはずなのだ。そのどちらも起こらないなんて、一体どういうことなんだろう?
叔母は、眉間に険しい皺を寄せて、室内をウロウロと歩き回っている。
「ちょっと……調べてくるわ。私が帰るまで、もう杖を握っちゃダメよ!」
「はい……」
パチンと指を鳴らすと、一瞬でよそ行きの服装に替わる。赤いラインの入った漆黒のローブを纏ってたところを見ると、どこかお堅い公共の場に出かけるに違いない。彼女が両手を1度叩くと、ヒュッと風が渦巻いて叔母専用の深紅の箒が現れた。なんでも不死鳥の骨が芯に使われているとかで、最高強度と最速を謳う世界にひとつだけの逸品なのだとか。
「ヒマしてる間、ここ片付けて置いて」
肩を落とすあたしに雑用を言いつけると、叔母は箒に跨がった。穂先から不燃の炎を吹いて、一陣の熱風と共に彼女の姿は青空に消えた。
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