countdown 10

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シャワーから上がり、首にかけたふわふわタオルで髪の雫を抑えた。夏帆は今治産のふんわりタオルが一番好きだ。この極上な肌触りは癒しだ。 しかし、背の高い父(176cm)はタオル置き場を自分目線でDIYしてしまい、夏帆(156cm)は毎回背伸びをしてタオルを掴み取らねばならない。毎日のことなだけに、そこだけが不満だ。 「さあ、お酒~」 テンションが上がった夏帆が冷蔵庫をのぞく。目の前には先ほど購入した選び抜かれた先鋭のお酒たちが並んでいる。 どれにしようかと、人差し指でちょんちょんして選ぶ。元彼を思い出した今日は、ほろ酔いでぐっすり眠りたい気分だった。 「ノンアルビールは気分じゃない。  糖質ゼロ チューハイも悪くはないけど、  やっぱり、ストロングハイをいっちゃいましょう!」 無駄に独り言をつぶやき、今日の晩酌相手が決定した。 夏帆はお酒は好きだが、強くはない。ストロング一本いけば、充分酔えるのである。 しかも明日は月曜で仕事だ。これくらいがちょうど良かった。 いい感じにデロデロに絆された寝巻き(高校文化祭で作った”気合いだ”Tシャツ)を着て、自室のベットに腰掛けた。長年着込んだTシャツというのは、安心感もあるしいい感じに身体になじんでいるから、新たにパジャマを新調する気が起らない。 (カッコいい彼氏ができたら、かわいいパジャマに変えますよ) 果たして、そんな日はいつ来るのやら。亮介と別れ、可愛いパジャマの登場はしばらくお預け決定になった。 一応、準備しているが、押入れの底に眠っているままだった。 夏帆はリモコンに手を伸ばし、適当にテレビを回した。ドラマの気分ではなかったから、お笑い番組にした。 そして、プシュッと栓を開けて一口飲んだ。 「アーッ、おいしい」 と目を細め、炭酸とアルコールをウェルカムした。早く酔いたいなと、一気に半分ほど飲んでしまう。 弱い夏帆はすでにいい気分になっていた。 夏帆は引き違いドアを開け、つながるベランダにでた。作りが古いためギシギシきしむので、そろりそろり、いつもの定位置に座った。 夏帆の家は少しばかり高台に建っている。夕暮れは陸奥湾に落ちるオレンジ色を眺められるし、日が落ちればむつ市内の夜景を楽しめる。 青森の短い夏季限定のお酒の飲み方なのだ。 夏帆はオレンジと群青色に染まってゆく陸奥湾を見ながら、残りのお酒をぐびっと飲んだ。 「ほろ酔い、サイコー……」 と一人酔いしれた。誰にも邪魔されない幸わせな時間。 浮気をしてイライラさせられる彼氏なら、いないほうがよっぽどいい。 でも、浮気もしない誠実な人が寄り添ってくれるのなら、一人よりもっと幸せだろうな。 夕方の涼しくなった風が、夏帆の頬と髪の毛を撫でる。夏帆は目を細めて、その風の後を追った。しばらく海を眺めていたら、オレンジが消え、群青色に変わっていた。 良い感じに酔った夏帆は部屋へと戻った。空き缶をテーブルに置き、ベッドに寝転がる。 今日も一日が終わる。 貧血は起こしたし、亮介を思い出してちょっと気分は下がった。けど、夏帆は自分が高所が苦手と発見したり、ヘリパイはカッコいいことを知った。 真希の言うとおり、あの成瀬というヘリパイは素敵だった。 あの時は真希のテンションに乗っかってはいけないと自制したけど、本当にあんなスペックな男性がいたら誰だって気になる。 でも、自分の生活圏であんな男性と関わりを持つなど、あり得ない。北極グマと南極ペンギンが出逢うことがないのと同じくらい、その確率は低いだろう。 職場は子供とその親だし、成瀬のような男性に巡り会う可能性はあるのだろうか――― 夏帆はパチリと目を開けた。 「ないな」 自分で言っといて「ふふふ」と笑ってしまう。多分、酔いが回ってきたせいだ。このまま気持ちよく眠りにつこう。あわよくば、成瀬のような素敵なメンズと恋に落ちる夢なんて見ながら。
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