countdown 10

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成瀬さん――― だとしとも、 なぜ、 うちにいるの? 夏帆は驚きのあまり声が出ない。 昨晩、夢で会えたらと願ったから叶ったのか。いや、これは夢の続きかもしれない、と夏帆は頬をつねってみた。普通に痛い。 ということは、目の前にいるのは 「本物の……成瀬さん?」 「本物?」 意味がわからない成瀬が首を傾げてキョトンとした。 そこへ父親がやってきた。 「夏帆。こちらは成瀬柊慈さんだ」 「し、知ってる…」 あまりにもありえない状況に、夏帆はまだ呆然としていた。 「なんで知ってるんだ?」 「昨日の基地の体験搭乗で一緒になりました」 戸惑う夏帆を横に成瀬がさっと助け舟を出した。 父親も驚いた表情をみせたものの、それならと話をすすめる。 「成瀬が乗っている護衛艦(ごえいかん)のライフラインが故障して船で生活ができなくなってな。うちの部屋が余ってるから来いよって成瀬に声かけたんだよ」 自衛隊艦艇勤務の者たちには、船の中に居室が与えられており、基本はそこで生活をしている。成瀬はその護衛艦に搭載されている哨戒(しょうかい)ヘリのパイロットなのだ。 その船のライフラインが故障とならば仕方はないのだが。 しかし、部屋を貸すなんて大事なことをさらっと伝えてくる父親に、夏帆は文句を言いたくなる。だけど、今は成瀬の手前、大人しくしようと決めた。 「そ、そうなんだ。成瀬さん、大変でしたね」 「船で生活できなかったので、井沢さんに声をかけてもらって助かりました。でも、夏帆さんは急なことで驚かれましたよね、すみませんでした」 洗顔したての爽快感あふれる笑顔で言われると、夏帆はまっすぐ成瀬に視線を送れない。 「そんなことないですよ。うちは部屋も余っているので、大歓迎です」 大人な対応をする夏帆だが、内心は心臓バクバクの状態だ。 (こんな偶然ってある? 昨日、出会った人と、家の洗面所で再会するなんて) 状況に混乱した夏帆だったが、あることに気が付き、一気にリアルに戻ってきた。 それは着込んでいたTシャツ…。 (あ…これは見られたくない。出来ることなら、モザイクをかけたい…) 猛烈に”気合いだ”Tシャツに羞恥心を覚えた夏帆は、胸の前で腕を交差させた。 「夏帆さん、ここ、使いますか?」 「あ、はい」 赤くなる頬を見られないように、夏帆はくるりとタオルの棚と向き合った。そして、背伸びしてタオルに手を伸ばした。 その背後から成瀬の腕が伸びてきて「どうぞ」と爽やかな笑顔と共に成瀬が渡してくれた。 「あ、ありがとうございます」 夢でならと願った人と、朝からこんなやりとりをする自分が信じられない。緊張で夏帆は鼻下に小汗をかいてしまう。
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