countdown 10

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「井沢さん、今日は早めに出ます。昨日の仕事の残務があるので」 脱衣所を出た成瀬は父にそう伝えた。そして、着替えをするために階段を上って行った。 夏帆は洗顔して寝癖を素早く直した。そして、耳はしっかり成瀬の足音を追っていた。 パタンー‥ 戸が閉まる音で、成瀬に貸している部屋の位置がわかった。それは、夏帆の隣の部屋だ。 (くぅぅ。私、なにも知らずに呑気に寝ていた。変な寝言、いってなかったかな) あたふたしながら身なりをセットしたら、次はリビングに置いてあるカーディガンを羽織りにいった。もちろん、気合いだTシャツを見られないために。 成瀬が二階から降りてきた。父親に続いて夏帆も玄関に向かう。 夏帆が玄関に到着した時、成瀬は後ろ姿で官帽をきゅっと被ったところだった。 成瀬がゆっくりと夏帆たちに振り向いた。 夏帆が成瀬の白制服姿を見るのは初めてだ。 スタイルの良い成瀬の白制服姿はスマートで、映画スターのような雰囲気さえ醸し出ていた。 もちろん、夏帆はなにも言えずに見惚れていた。 「いってまいります」 玄関扉を開き、朝日に包まれた成瀬は微笑みながら挨拶をした。 「気をつけてな」 父親がそう言って普通に送り出してくれた。 夏帆は朝から素敵なものを見てしまい、しばらくその余韻に呆けたままだった。 そして思う。 成瀬が制服に着替えたら――― 誰もが恋に落ちる、と。
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