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同居して初めての夕食づくり。
気合が入っているわけではない、と自分に言い訳をしながら、夏帆は定時ぴったりに園を後にした。もちろん、夕食の買い出しに行くためだ。
井沢家での食事の担当は夏帆だ。
家の保全管理は父親の役割になっているからだ。このむつ市は早くて十一月下旬には初雪が降り、雪かきが必須な地域だ。だから自然と、家の中のことは夏帆が、外回りは父親の担当になっていた。
なじみのスーパーユニゾンに到着した。
カゴを手に取り、いつもなら迷わず特売の肉や魚、野菜たちをピックアップして買ってゆく。
しかし、今日から成瀬も一緒に食卓を囲むのだ。
同居して初めての夕食は、地元ならではの旬な食材で作ることを夏帆は決めていた。
夏帆は郷土愛もあり、地元の食材には絶対に美味しいという自信がある。
成瀬にもぜひ、むつの味を楽しんでもらおうと思っていた。
ユニゾンはむつ市内では大型スーパーになり、品ぞろえも豊富だ。もちろん、魚も新鮮で選びがいがある。
青森の陸奥湾は帆立の養殖が有名だ。夏が旬なので、コーナーには大ぶりで肉厚な帆立が所狭しと並んでいた。この帆立を手軽に食べることができるのは、地元民の特権だ。
そしてあまりメジャーではないが”そい”という白身の高級魚が、夏帆の中では一押しだ。肉厚で癖がなく、刺身でも、焼きでも、煮付けでも、どんな調理をしても美味しく食べることができる。
(たら白子の味噌汁、帆立のカルパッチョ、”そい”の塩焼き♪)
夏帆は頭の中でメニューを浮かべ、食材をカゴに入れてゆく。成瀬の顔が浮かぶと、自然と笑みが生じてしまう。
父親のための買い物では義務感たっぷりだけど、成瀬のためにと思うと心が弾んでしまう。
ふと、気づくと鼻歌を歌っている自分がいた。夏帆はぴたっと足をとめた。
(私、浮かれてる?)
夏帆は一人勝手に頬を染めてしまう。成瀬と突然の同居、ドキドキしてしまうのは当たり前。何かを期待しているわけではない。
今日の晩御飯だって、これは純粋にお客さまをもてなすためだから。
夏帆は自分で自分にそう言い聞かせた。
よし!と気合を入れて買い物カゴをぐっと持ち直しお会計に向かった。
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