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成瀬も着替えを済ませ、皆で食卓を囲った。
父親と成瀬が対面で座り、夏帆は父親の隣で食べることにした。
「いただきます」と手を合わせ、夕食が始まった。夏帆はいつも通りに食事をしたいのだけど、やはり成瀬の反応が気になってしまい、横目でチラチラ確認してしまう。
味噌汁に口をつけた成瀬の姿を思わずじっと見つめてしまう。
いつもより丁寧に出汁をとった味噌汁。
(素材がいいのだから失敗はないはず――)
夏帆は祈るように、成瀬の感想を待った。
成瀬は一口飲んで微笑みながら顔を上げた。
「夏帆さん、この味噌汁とても美味しいです。昆布出汁がよくでていて、白子とよく合いますね」
「あ、ありがとうございます」
「昆布の出汁をこんなに感じるのは初めてです。やっぱり青森の美味しい水と地元の昆布は相性がいいんでしょうね」
そういう成瀬の頬が緩んでいるのが分かった。きっと本音で言ってくれているとわかり、夏帆も嬉しなる。
「内地から来た方たちは、ここの水が美味しいって褒めるんです。都会の水はどんな味なんですか?」
「住んでいる時はわからないんですが、青森にきて水が美味しくて驚きました。天然ミネラルウォーターが蛇口から出てるって感動ものですよ」
成瀬もリラックスしているのか会話も軽やかだった。
「たしかに、美味しい水と食材で作れば失敗もなく作れると思います」
「夏帆さんの腕前がいいんですよ。食材を生かすかどうかは、料理人次第です」
謙遜する夏帆に、成瀬はやんわりと肯定してきてくれる。そこに父親も会話に入ってくる。
「夏帆の飯は美味いんだよ。小学生のころには絶品味噌汁を作ってたからな」
ビールを飲み一人だけ当てに塩辛も食べている父は、なぜか上機嫌だった。
「夏帆さん、小学生のころから料理をしているんですか?」
成瀬が手を止めて夏帆に聞いてくる。夏帆は一瞬、逡巡してしまう。
「母が…病気で亡くなったので、私が台所に立つことが増えて自然とそうなりました」
「…そうだったんですね。きっと天性の腕前もあったんでしょうね」
「あ、ありがとうございます」
いつもは、早くに母親を亡くしかわいそう、となるのだが成瀬は悲観な流れにさせることはなかった。これも成瀬という人の良さを表していた。
そして、何気ないがきちんと褒めてくれるのも、夏帆にとって自信につながり嬉しかった。
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