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「ご馳走様でした。とてもおいしかったてす」
「お口に合ってよかったです」
成瀬は夏帆が作った食事をきれいに食べてくれた。成瀬の反応がうれしくて、夏帆も自然と笑みがこぼれてしまう。
しかも、成瀬は食器を運び皿を洗いを始めた。
「成瀬さんっ、洗い物はやりますから、ゆっくりしててください」
夏帆が慌てて声をかけた。しかし、成瀬はやんわりと笑顔で制した。
「食事を作っていただいたんです。片付けをするのは当然ですよ」
「でも成瀬さんは、お客さんですから……」
「では、期限付きですが”家族”として扱って下さい」
突然のワードに夏帆の心臓がキュンと跳ねてしまった。そんな夏帆の心中も知らず、成瀬は続ける。
「家族ですから、皿洗い、ゴミ捨て、なんでもやりますよ」
「…家族。そんなこと…できませんよ」
「そのほうが僕の気持ちが楽になるんで。よろしくお願いします」
家族―――
夏帆の頬がぽわと熱を持つのがわかった。
未来を想像させるようなワードに、ふわふわした気分になってしまう。
「成瀬さんがそうおっしゃるなら……では、お願いします」
たしかに、成瀬の性格では、お世話になりっぱなしは居心地も悪いのだろう。自分のことは自分でやる、いい大人なのだから当たり前といえば当たり前のことなのだが。
二本目のビールを開けて、いい感じに酔い始めている父が口を開いた。
「成瀬は全寮制の防衛大出身だから、身の回りのことは自立してるんだ。お客さん扱いより、役割を与えたほうがいいんだよ」
「防衛大って、生活訓練もするんですか?」
「まあ、生活全般は出来るようになりましたね」
苦い顔をして成瀬は笑った。そこから、厳しい訓練があったことがうかがえた。
パイロットになれるくらい賢くて、人当たりもよくて、自分のことは自分でこなす。夏帆は単純にすごい人だとあっけにとられてしまった。
「非の打ちどころがないですね…」
思わず夏帆の心の声が口からでてしまった。密やかに隠していた胸の内をさらしてしまった気がして夏帆は急に恥ずかしくなってしまった。
「じゃあっ、私はお風呂の準備をしますねっ」
「ありがとうございます」
成瀬は柔らかな笑顔を夏帆に向けてくれた。
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