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「真希に車を出してもらって助かったわ」
真希が運転する横で、夏帆は安堵の表情になる。夏帆も真希も、むつ市の中心地である田名部地区に住んでいる。
サマーフェスタに参加していた小湊基地から約二十分ほどの距離。
「でもさ、もったいないよ。せっかくエリートパイロットと出会えたのに帰っちゃうなんてさ。滅多に出会えない人種だよ?」
真希が口をとがらせ夏帆に言った。
「滅多に会えないって、天然記念物じゃないんだから大袈裟よ。それに、そんなにエリートなら、もう結婚しているかもよ?」
たしかに見た目はカッコよかったけど、それなら周囲の女性が放っておくはずはないと夏帆は思っていた。
「左の薬指、指輪なかったよ」
ちゃっかり既婚者チェックをしていた真希がにんまりと笑った。すかさず、夏帆が言う。
「妻はいなくとも、彼女くらいはいるでしょう。あのスペックだもの」
良い人がそのまま放置されるような世の中ではないことを夏帆は経験から知っている。
「だーよーねー。せっかくエリートパイロットと知り合うチャンスだったのにな」
と左右を確認しながらゆっくりハンドルをきる真希。そんな真希に呆れて、夏帆は目を細めて言う。
「エリート自衛官との出会いを求めてるけど、真希にはもう婚約者の碧人くんがいるじゃないの。結婚前から浮気宣言する気?」
真希は地元の同級生・小倉碧人と高校生の頃から付き合っていた。別れと復縁を二回ほど繰り返し、ようやくお互いの絆が深まったと婚約に至ったのだ。陸の孤島と呼ばれるむつ市は内地から離れているので、この限られた地域で一生を添い遂げる伴侶を見つけられたことは、本当にうらやましかった。二人を知っている夏帆だからこそ、そう思うのだ。
「えへへ。でも、イケメンパイロットなんて目の保養にはいいでしょ?それに、今回の目的は夏帆に素敵な自衛官を探そうと参加したのよ」
真希はそれらしい方便を夏帆に言ってくる。夏帆は疑いの目で返す。
「本当に?真希が一人ではしゃいでいるように見えたけど?」
「盛り上げようとしてただけよ」
「そうかな?」
「そうだよ。夏帆、亮介と別れてから元気がないもん」
真希は少し声のトーンを落とし、親友らしい心配顔をのぞかせた。
そんな真希の顔を見たら、二か月前のあの出来事が夏帆の頭をフラッシュバックしてきた。
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