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夏帆の元カレ、前原亮介。二十八歳。
地元、下北半島で展開する薬局チェーン店の息子。
むつ市商工会が開催する『青年団の集い』でその年の代表として出席した夏帆の隣の席に座っていたのか亮介だった。
亮介は夏帆に積極的に声をかけてきた。集まりでも中心的な存在で、明るく、賢く、要領よくこなす姿は夏帆も目を見張るほどだった。そしてこの後、夏帆は亮介に誘われ食事に行くことになったのだ。
地元のホタテ料理が評判の『いさりび下北』に連れられ、ここでも主人や常連さんから声を掛けられていた。
それは亮介の仕事柄、当然だった。
地元に根付いた薬局なので、地域の集まりなどには必ず参加し貢献をしていた。だからどこへ行っても顔が広かった。
そしてその酒場で亮介は夏帆に、むつ市民の健康をセルフメディケーションで守りたいという、高い志まで滔々と語っていた。
夏帆はその熱意に惚れたといっても過言ではない。夏帆もずっとこのむつ市で過ごし、郷土愛は持っていたからだ。だから熱い思いが溢れる亮介を尊敬の目でも見ていた――のに。
その虚像を打ち砕く出来事が起こった。
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