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それは夏帆が働く小湊幼稚園で起った。
自衛隊基地近くの釜伏山の麓にある歴史の長い小湊幼稚園。夏帆は短大を卒業してからずっとこの幼稚園で働いていた。
その日はいつも通り、帰りの会が終わりバス通園の子供たちをバスに乗せた。そして徒歩通園の送迎にくる親に対応していた時だった。
「こんにちはっ。夏帆先生っ」
と、夏帆の年長クラスの佐藤誠くんのママがご機嫌よく挨拶してきた。
このママはとても美人と評判で、バツイチながらも一人で誠くんを育てていた。そんな誠くんママがいつも違って、ウキウキな表情だった。夏帆は何気なく質問した。
「こんにちは。誠くんママ、なんだかとても幸せそう。何かあったんですか?」
「えーー。やっぱり顔に出てますか? 実は、ちょーカッコいい彼氏ができたんですよお」
「そうだったんですね、おめでとうございます!!」
誠くんを一人で育てる苦労も知っていたから、もしかしたら誠くんママを支える素敵な人と一緒になれるかも、と夏帆も嬉しかった。
「先週付き合いだしたばっかりなんだけどね。夏帆先生になら、みせてもいいかな」
と誠くんママは溢れそうになる笑顔を押し込め、スマホである写真を見せてくれた。
どれどれと夏帆は笑顔でスマホをのぞいた。
そこには、誠くんママがある男に肩を抱き寄せられて、頬をくっ付け合わせカメラ目線で写る二人がいた。
そのある男に見覚えがある夏帆は一瞬で真顔になった。
それはなぜかと言うと、
「じゃーんっ。彼氏の亮介でーすっ。薬局を何店舗も持ってて、経営者でもあるんですよお」
その彼氏というのが、夏帆の彼氏のはずの前原亮介だったからだ。
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