countdown 10

6/11
前へ
/157ページ
次へ
「夏帆。今、亮介のこと思い出してたでしょう?」 刹那だったと思われたが、夏帆は無言だったらしい。真希に声を掛けられ、はっと我に返る夏帆だった。 「ううん。あ……うん。仕方ないよ。別れてから時間も経ってないしね」 「だよね。でもさ、電話で別れ話を済ませるってナシだよね。浮気した亮介は、直接責められることもないから苦痛がないよね。でも、夏帆はもっと言いたいことあったんじゃない? あまりにもあっさり別れすぎだったと思う」 真希がフンと鼻息を吐き、ハンドルを強気握りながらそう言った。そんな親友に夏帆は頼もしいと思う。しかし、夏帆は悔しい思いを閉じ込めても、穏便に亮介と別れたかった。 「違うよ。私が振られたんだから仕方ないの」 「えー? 誠くんママのほうが浮気相手だったんでしょう?」 「亮介に問い詰めたら『夏帆よりカスミのほうが俺を愛してる』って言われたんだよ? その時点で亮介も誠くんママに熱上げてる感じだったし」 はっきり亮介から別れを切り出されたわけではなかった。でも、亮介の恋のベクトルは夏帆ではなく誠くんママにだったのは確かだった。 そして、誠くんママも幸せそうだった。 だったら、真相を話して話をこじらせるより、夏帆が静かにフェードアウトしたほうが穏便だと考えたからだ。 なにより、二人が上手くいって誠くんとママの幸せにつながるなら、と思ったら夏帆は潔く身を引けた。 「だから、園でも誠くんママと気持ちよく顔を会わせることができているしね」 夏帆はそんな風に自分を納得させていた。 「まあ、ね。仕事で毎日会うから、トラブルはないほうがいいけどさ。でも、浮気した奴より夏帆が苦しむってのも腹が立つ話よね!」 夏帆の代わりに真希がお怒りモードになってしまう。その時、赤信号になり真希がきゅっとブレーキを踏んだ。その勢いに思わず二人ともつんのめってしまった。「あわわ」となりながらわも、二人は目を合わせ笑った。 「腹立ててたら、赤信号、見えてなかったわ~」 真希は冗談ぽく額の汗を拭きとる仕草をする。 「過ぎたことはもういいの。真希、心配してくれてありがとうね」 「夏帆はお人よしすぎる。それじゃ、損してばかりになるよ」 「うん……。でも、しばらくはいいかな」 少し弱気になっている夏帆を真希はなだめるように言う。 「私からみても夏帆はいい女だもん。いつかきっと、ヘリパイの成瀬さんみたいな(ひと)と出会えるって!」 「ははっ。そうだね」 何度、真希のこの明るさに励まされただろう、と夏帆は心がじんわり温かくなった。 車はようやく町の中心地、田名部についた。夏帆は真希から飲みに誘われたが、貧血を起こしたこともあり、本日は大人しく帰宅することにした。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3389人が本棚に入れています
本棚に追加