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それは、後片付けのときだった。
成瀬と白戸は火の後始末、夏帆と詩織そして子供たちは炊事場で洗い物をしていた。
夏帆になついた子供たちは、その周りをうろうろしていた。
「ママとパパは、いってきますのチューするんだよ。ラブラブなんだ」
颯太が夏帆を見上げてそう言った。
「そうなんだ。仲がいいんだね」
と夏帆も笑って返す。すると今度は峻も、
「絶対に毎日するんだよ。夏帆ちゃんも成瀬さんとするの?」
「……いや、」
こういうことは上手く返すことができない夏帆はつい口ごもってしまう。
つかさず詩織が入って来た。
「こら、余計なことは聞かなくていいの。ほら、あっちでフリスビーやっておいでよ」
「フリスビー、したい。行ってくる!」
と子供たちが嵐のように去っていった。
「ごめんね。子供らが変なこと聞いて」
「いえいえ。それにしても白戸さんたちは仲がいいんですね」
「はははっ。でもうちだけじゃないのよ。知り合いのパイロット夫婦は、みんな朝のスキンシップを忘れないの」
「いいな。そういうの憧れます」
夏帆は何気なく、そうつぶやいた。
「そうだね…。ジンクス、があるんだよね」
皿を洗いながら詩織も思い出すようにつぶやいた。
「なんのジンクスですか?」
夏帆は話の流れで訊ねてしまった。
詩織は少し困った顔を作った。
「喧嘩した日に旦那の乗っていたヘリが事故に――って話を聞いたことがあって。だから後悔しないように、喧嘩をした朝もスキンシップは欠かさないことにしているの」
「―――事故」
夏帆の手が止まる。
「あっ、そんなに深刻にならないでね。そのために日々訓練しているんだしね」
「……はい」
しかし、すでに夏帆の意識はそこにはなかった。
毎日、スキンシップをする理由
それは
ある日突然、会えなくなるかもしれない
という裏返し
(……私は勘違いをしていたかもしれない……)
半年間会えないとか、なんてことないんだ。
死んでしまうのに比べたら。
夏帆の頭から血の気が引いてゆく。
代わりに恐怖が夏帆を支配しはじめる。
母の時と同じ感覚―――
本当の試練は、ここかもしれない
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