countdown 3

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成瀬は何も言わず黙ったまま夏帆の話を聞いた。 「母が危篤で父が病院に駆けつけた日のこと。私はまだ幼くて、その日は伯母にあずけられていました。日が暮れても、いくら待っても、母も父も帰ってこない。どうして帰ってこないのって、私は不安と恐怖で押しつぶされそうでした」 「母親が亡くなった日のことですか…」 「はい…その時の記憶をなぜか、思い出してしまったんです」 夏帆は苦しそうに眉をひそめる。そして、その不安を成瀬に問いかけた。 「成瀬さん…」 「なんですか?」 成瀬は優しく夏帆を見つめる。 「成瀬さんは絶対に?」 頬を濡らす涙を拭うのも忘れて、夏帆はすがるように成瀬に問う。 夏帆は成瀬の仕事の本当のリスクを理解したのだ。 それを受け入れてもらいたかったのは成瀬。しかし、この仕事に100%の保証などない。その事実も伝えるべきなのか、成瀬の顔から余裕がなくなる。 「あなたを笑顔で見送って帰ってこないなんて、そんなの嫌だっ」 不安でたまらなくなった夏帆が本音をぶつけた。 成瀬も夏帆から目を逸らさず、真剣な顔つきになる。 成瀬としても非常に辛い問いかけだった。しかし、それでも上回る気持ちがある。 夏帆と一緒に居たい、という想いだ。 そして、成瀬はゆっくりと口を開く。 「わたしは必ず、夏帆さんのもとに帰ります。  何があっても絶対に」 ゆるぎない意志を感じる口調だった。 それは頼もしく、夏帆は今すぐにでも成瀬に胸に飛び込みたくなる。 しかし、頭の奥からあの日の苦しい感情が支配しようとする。 ”待つ人が帰ってこない恐怖  また体験するするかもしれない” 夏帆の中で、成瀬に飛び込みたい気持ちと過去のトラウマが拮抗していた。 なぜ今になって思いだしてしまったのか、夏帆は苦しくて仕方ない。あふれる涙が止まらない。 「色々な感情がっ…渦巻いてしまって…」 夏帆はしゃくりあげながら懸命に言葉を出した。 「ええ…」 成瀬は優しく手を解き、夏帆の背に手を回した。 そしてゆっくりと包み込んだ。 「…少しだけ時間をください。心の…整理をさせてください」 成瀬の腕の中で夏帆はこどものように泣いた。 「わたしはいくらでも待ちます」 「成瀬さん…好きです。そして…ありがとう」 言葉を発するのも精一杯だった。そんな夏帆を成瀬はさらに強く抱きしめるのだった。
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